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“超人”と“大我”。

@ここ1、2年位前から、かの哲人フリードリッヒ・ニーチェの著作や格言本が人気だ。何処の書店に行っても、決まって話題ボンの陳列棚には「ニーチェの言葉」とか「座右のニーチェ」など彼の格言の“超訳”本や格言集が置いてある。そしてそれらは、混沌と暗黒の世を生きる若者たちに、読まれているらしい。

@ニーチェが晩年の名著『悦ばしき知識』の中で“神は死んだ”と叫び、それは一般的には、世の終わりやニヒリズム(虚無主義)の到来を告げたものと受け止められている。しかし、この宣言の裏には、もう一つの意味がこめられていた。
その意味とは・・・。


@アメリカの著名な教育哲学者で、ニーチェの哲学について研究を進めているジム・ガリソンという人(ジョン・デューイ協会前会長)は、ある新聞のインタヴューで、ニーチェが宣言した『神の死』という言葉は、世の週末を告げたものでも、ましてやニヒリズムをいたずらに喚起したものではない、と答えている。

@『神の死』という言葉は、絶対的な価値を失った厳しき現実に対して、“悦ばしき”“創造的”な対応をせよ・・・つまりはポジティヴに、またクリエイティヴに向き合え、と人々に促したものなのだ、と。

@西欧において、全ての価値創造の基準、若しくは根源となった「神」は死んだ。だから我々一人一人は今こそ、自己自身の価値を創造する時だ。または、新しい基準で既成の全ての価値を再評価する時なのだ。そういう「価値創造」を遂行した人をニーチェは「超人」と呼んだのだ、とガリソン氏は言う。

@すなわち「神の死」は古くからある「神」と繋がる価値観の「死」を告げる言葉であると同時に、一人一人が自分というものの価値を創りあげる時代の到来を告げる言葉だったのだ。自己自身の中の、限りない可能性に信をおき、その可能性を自分でトコトン追求し、己の価値を創りあげるのだ、とニーチェは言いたかったのだ。

@一方、“小我から大我へ”と己を開拓しゆく、縁起思想を基盤とする仏教思想に基づき「自分も他者も共に幸福になり、自他ともの喜びを創造しゆく、(生き生きとした)人生と社会の建設」と言ったもう一つの「価値創造」の実践的思想がある。ガリソン氏は「これはニーチェの“超人”思想とは対照的である」と述べている。

@ニーチェは、超人は自分独りで開拓し、創りあげるものだと考えている。対して、仏教の“大我”は、師弟の啓発に象徴されるように、“人と人とのふれあい”によって開花するものなのだ、とガリソン氏はいう。氏は超人思想と大我思想とのさらなる重要な違いを「ニーチェの思想は、エリート主義に基づき、仏教の思想は民主主義に基づく」と指摘している。

@エリート主義は、自分独りが人より優れた存在であろうとするのに対し、民主主義は、個性も性格も違う一人一人が、等しく掛け替えのない存在であり、互いに繋がりあって共に生きようと指向するものである。

@超人思想を持つ者は、他者を蹴落とし、自分が高みに上がろうという観念を生むあまりに、互いに繋がりあって共同体を造って行きよう、という感性に乏しくなる危険性がある。ゆえに超人思想は、社会において、他者を支配しコントロールしようとするタイプの人間を生み出しやすい。

@今の時代は、ニーチェの時代以上に複雑・混沌化する諸問題を抱え、あらゆる価値観が空洞化し、人を救う力、人を生き生きとさせる力を喪失しつつある。全ての価値は相対的、だから何をやってもいいんだ、といった一種のニヒリズム、インターネットに乗っかった儲け主義、物質主義が濃厚な毒素のように、世に蔓延している。そのために多くの世界中の人々が、悩み、苦しんでいる。

@そういう時代には、ニーチェの指向する「独りだけで己を開拓しよう」とする「超人主義」よりも、「常に自己自身と他者が触れ合って啓発しあい、自他共に精神の高みを目指し、(それこそ”悦ばしき”!)幸福な人生と社会を築き上げよう」という仏教思想に基づく「大我の思想」こそが光を放つ筈だ。「人間相互の可能性の啓発を、共同体での交流の中で磨き、“自他ともの喜び”を創造する」(ガリソン氏)生き方が、この世の人々に苦難を打ち破るエネルギーを引き出し、世界を不幸へと導くニヒリズムへの転落を防ぐ。

@そしてこの「自他ともの幸福」を目指す生き方こそ、混乱混迷を極めて、衰滅もしくは“空中分解”の汀にあるこの島国の人心と社会を救うに違いない。と私は思うのだが、如何だろうか。
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