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智慧の実 [詩作]

今、私は木の実を食べている。

その実は、しかし、決して甘くは、ない。

一口食べるとひどく苦い。

口の中がビリビリと痺れ、唇が恐ろしく大きく腫れ上がる。

仁丹よりも、キニイネよりも、更に、さらに苦い。

 

周りの人々は、みんな熟しきった桃のように、

甘く酸っぱい香りを辺り一面に漂わせる木の実に

いっせいに手を出して、これまたうまそうに、

むしゃむしゃとかぶりついている。

 

私もあの甘い木の実を食したいと

思うことしきりなれど、

あのあまい木の実を食べた人たちのその後が

とてもよくないことになっているのを

南からやってきた機織り雀から聞かされているので、

私は未だ、食べずにいる。

 

やがて、

あの甘酸っぱい桃のような香りをただよわせている実を

食べ続けた人々の中から、

惚けたようになったり、

あるいは他の人を虐げようとする

一群が現れた。

 

そのとき、私の肩にとまった機織り雀が

耳元でさやかに、こう囁いた。

「みただろう? あの実は人間を、だめにしてしまう、毒の実なのだよ。

「人間から考える力と、生きる力を奪ってしまう恐ろしい毒の実なのだ。

「あの実を決して食べてはいけない」と。

 

やがて、その毒の実を食べ続けた人々は、

みんなして、呆けたようになってしまった。

そして、そのうち、痩せ細って倒れ、そのまま、2度と起きてこなくなった。

 

仁丹よりもキニーネよりも、苦い苦い、木の実を食べ続けていた

私の頭と全身は、しばらくすると、

おお・・・なんと、不思議なりや!

聡明なる智慧が、あたかも澄み切った泉のようにわき溢れ、

日々眼にするすべての中に、密かに秘められた何かを

見つめる知力と、

何者にもゆるがせに出来ないほどに、

力強く生きる力がわき上がってきた。

 

それと同時に私の口の中は、

痺れるほどだった苦みが、

ほんのりとやわらかく、濃厚な甘みにかわっていったのだ。

まさに甘露の味わいだ。

 

機織り雀がまた囁いた、

「君が食したのは、本当の、智慧の実なのだよ」と。

(2008/04/12)


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