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星人ロロン(1) [ドラマ・ミニアチュール]

◎その女は、透明で大きなカプセルの中に包装されていた。耳を澄ますと、すーすーと寝息が聞こえてきた。


◎カプセルの中の女は、驚くほど長い緑の黒髪をしていて、肌が抜けるようで、象牙色に近い色だった。けれど、眸の色が普通のように黒茶でなくて、それは綺麗な綺麗な、エメラルドグリーンをしていた。


◎惑星ピンダロスに住む惑星物理学者、ドド・アスベン博士は、女の入っているカプセルの横に着いている赤くて円いスイッチボタンを押すか押さざるか、思案に暮れていた。そのスイッチを押すと、カプセルがパコンと開いて、中の女が動き出して出て来るしかけになっているのだ。そして一度、そのボタンを押したら最後、女の起動を止めて、カプセルに収めることが出来ない。つまり、このカプセルは使い捨てになるように出来ている、ということだ。

◎女は、万能細胞由来の幹細胞から生成された、人工の皮膚と筋肉、内臓を、精密なデジタルメカとアクテュエーターが仕込んであるチタニウム製の骨格に特殊な技術を使って引っ付け、人間の女と寸分違わぬ外見を持った、最先端の性能を誇る高性能アンドロイドであった。

◎博士は、この女を起動させるか、それともこのまま起動せずに、さっさと大人のオモチャ屋に返品するか、どっちにするか、迷っている。時計は、もうこの星の時間で、午前4時を指していた。


◎博士は齢45にして、今だに独り者であった。このダッチワイフを購入したのも、ふとした出来心からだった。夜中、裏通りを歩いていると、ピンクのLEDが鮮やかに、妖しげに光る看板が目に入り、中へ入っていくと、そこはいわゆる「大人のオモチャ」の店であった。

◎これぁえらいとこへ入ってしまった、と赤面し、焦りながら店内を見まわすと、何と、店の片隅に、実に見事なダッチワイフ用アンドロイドのカプセルがあった。思わず、店主に「これください」と言って衝動買いをしてしまった。気がついたら、これはえらい高い買い物であった。そのことに後悔の念を覚え、返すか返すまいか、ずっと寝ずに考えあぐねていたのである。

◎やがて、西の空に、ピンダロスの太陽が昇った。ここでは地球と違い、太陽は西から上るのである。ピンダロスの太陽は、私達の太陽系のそれよりも、2倍大きくて、やや明るいオレンジ色をしている。

◎熟慮の果てに、如何やら、博士は腹を決めた。そして、おもむろに、例のカプセルのボタンを押した。
(つづく)
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