SSブログ

星人ロロン(6) [ドラマ・ミニアチュール]

◎黒装束の人物は、ロロンと、田茂木茸雄の姿を認めると、「おぉ!」と声をあげた。親しそうな響き。田茂木にはその黒装束に見覚えがあった。田茂木の口は、咄嗟にある固有名詞を発した、「朝永博士!」。

◎朝永は、ロロンを見るや、いきなり「田茂木君、君も『ロロン号』を購入したのかい?」。その言葉に、田茂木は驚きながらも、「いえ…これは惑星ピンダロスの友人ドドから送られたものです…」と下を向いて答えた。

◎朝永は、田茂木と同じ昆虫学者で、ゾウムシの研究を専門にしていた。ゾウムシの分類や発生の起源、進化の足跡等を、遺伝子のレヴェルまで辿って研究している。また、違う種類のゾウムシ同士を掛け合わせて、新種のゾウムシを作り出すことに世界ではじめて成功している。

◎その朝永も、ロロンと同じ仕様の精巧なエージェントを購入したという。そのエージェントを助手の代わりに使うのだという。朝永は、田茂木の、頭髪が何処にも生えている気配のない、つるつるのスキンヘッドを見つめながら、「ところで田茂木君も、その『ロロン号』を助手にするつもりなのだろう?」と尋ねた。

◎「いいえ」と田茂木は答えた。「僕の傍にいてもらって、純粋に愛する対象として、この子と向き合いたいのです、助手にするツモリは毛頭ありません」。

◎「ほー」と朝永は感心したような顔をした。「愛する対象ねェ…。それじゃ結局、ダッチワイフ用じゃないかね。我々の間では、『ロロン号』をそんな目的でなくって、実験や研究の手伝いをするために購入しているんだがね」

◎「あなたは、愛する対象としないのですか、『ロロン号』を」今度は田茂木が尋ねた。その声には、いささかながら怒気が含まれていた。

◎朝永は、半ば呆れたような困ったような顔で、こう言った。「君ィ、所詮は人間ならぬアンドロイドだからねぇ、愛する対象にするというのは、いささかオカシイのではないかね?」

◎田茂木と朝永の言い合いをじっとロロンは聴いていたが、ついに、口を開いた。

◎「生身の、人間でなくても、愛する対象にしても、いいではないですか」 朝永の目が驚いたように見開かれた。(つづく)
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

星人ロロン(5)健のう丸。 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。