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星人ロロン・第2部(1) [ドラマ・ミニアチュール]

☆ベルベル星を旅立った、田茂木とロロンを乗せたロケット・ガルー号は、順調に銀河系内を航行していた。ロロンは、ガルー号の船窓から、真っ暗な宇宙空間を眺め、有る事を思い返していた。

☆それは、ピンダロス星のことだった。田茂木という今自分が愛している男のもとへ、自分を郵送したあのドド・アスベン博士は、今ごろどうしていることだろうか。そのようなことが、ロロンの頭を過(よ)ぎった。

☆その時だった。ガルー号が突然、何かに吸いこまれるような力に捉えられた。「あっ!」と操縦桿を握る田茂木が、鋭く叫んだ。ロケットはドンドン、前に吸いこまれていく。脳型コンピュータ搭載の電子羅針盤が叫んだ、「緊急事態発生!…ただいま、アロン星近くのブラックホールに我が機は吸いこまれつつあり、ベルトとヘルメットを直ちに着用してください」。

☆船内の二人は、急いでベルトとヘルメットを着け、万が一の危険な事態に備えた。強力なGが船体全体を襲った。グワー!と言う感じでガルー号は暗黒空間の底に吸いこまれていった。二人は、船内で意識が混濁し、やがて失神した。


☆気がついたら、ガルー号は船首を地面に突っ込んだまま、不時着していた。先に気がつき、眼を覚ましたロロンは、コックピットに突っ伏したままの田茂木の肩をもって激しくゆすり起こした。「起きて、茸雄さん、起きて!」 田茂木が眼を開け、上体をやっと起こした、
「う…む…」。

☆全てがサカさになっているので、二人は船体から降りるのに難儀した。「如何やら不時着したらしい」と田茂木が言うと、ロロンは言った。「死ぬかと思った」


☆やっとの思いで、ガルー号の扉を開け、備え付けの梯子(はしご)で地上におりると、そこは薄紫色が空1面に広がる、不思議な印象の星だった。「ここはどこだ…?」訝しがる二人。やがて、田茂木の眼に何かを思い出したよう光が一瞬灯ると、あとにありありと、懐かしさの色が浮かんできた。それをロロンは見た。
「如何やらここは、彼の人生にとって、深い関係のあるところに違いない!」

☆田茂木には、ここは幼少の頃に父母と過ごしたなつかしの故郷のように思えていた。…この紫の空の色は、私が小さい頃に住んでいたプカスカの都・ルルシカにそっくりではないか。ということは…我々は、プカスカに不時着したのか?しかし、それにしても、あたりを見回しても、人っ子一人いない。ここは本当は、如何いうところなのだ?

☆田茂木とロロンが周りを見まわしている所へ、何者かが、杖を突きつき鈍重な足取りでやって来た。二人が気付いてそれをみると、背がイセエビのように曲がったひとりの老人であった。その老爺は、ゴツイ木製の杖を持ち、玉のような大きな目を持ち、全身が真っ白な毛足の長い毛に覆われていた。老爺は、プカスカの言葉で、彼等に話し掛けた。

☆老人「ここは惑星プカスカの衛星のひとつ、パンダラーという星だよ、お二人さん。この星には、私の他には、だれもいないんだよ」
 
 田茂木「えっ!ここには御老人しかおられないのですか!」
 
 老人「ああ。200年前の大戦争で、我々の一族は滅ぼされてしまった、私ひとりを除いてね」
 
 ロロン「おじいさんは、その頃から生きているの?」
 
 老人「そうだよ。あの時私は、小さな子供だった。父母と一緒に安全地帯まで逃げた。安全地帯には敵は来れなかったから、私は家族3人、ずっとあそこで生きることが出来た」
 
 老人は、カーキ色の地平線の向こうにある、緑色を帯びた丘と思しき場所を指差した。二人は「ほぉ~」と首を伸ばしてそれを見た。

☆老人「この星はあそこ以外、砂地だらけの砂漠じゃ。私達家族は、あの緑の丘で、ずっと200年もの間、生き続けてきた。緑の丘に移って100年ほど経った頃、父が、全身がドロドロに融けて、骨だけになって死んだ。それから間もなくして、母はお腹が大きくパンパンに膨れ上がって、産まれる、産まれる、と言って死んでいった。母のお腹からは、沢山の鱗だらけの生き物が出て来た。うろこの生き物は、地球人のような姿をしていて、凄く小さく、細長い赤い尻尾がついていた。母のお腹を突き破ったそれらの生き物は、緑の丘から砂漠へ向かってみな走り去っていった…」
 
 二人「……」

☆ガルー号は、如何やらエラングラ系の第4惑星・アロン星近くに存在するブラックホールに急襲された後、時空の歪みに捉えられ、いきなりプカスカの衛星・ここバンダラーに不時着したらしいのだ。この星に人間、というより知的生命体といえば、このプカスカ語の話せるよぼよぼの白い毛皮に覆われた老人だけだという。あとは2本足で歩く、人間のような姿をした小さな赤い尻尾の生き物だけだ、というのだ。

☆「えらいところへ来たもんだ」
 「私達は、帰れるのかしら」
 「ちょっと待って、今、ロケットを調べに行って来る」 田茂木はロロンとじいさんをそこに置いて、ガルー号へと向かった。

☆ガルー号の中は、見た所、異常がなかった。ただ、羅針盤の役目を果たしてくれていた脳型コンピュータは、完全にイカレているらしかた。「こりゃまずい…」田茂木の顔に困惑の色が浮かんだ。

(つづく)
タグ:SF小説
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