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星人ロロン・第2部(2) [ドラマ・ミニアチュール]

☆ガルーロケットの脳型コンピュータつき羅針盤が、この星に衝突したショックでか、酷くイカレていた。ナビゲーション機構が正常に作動しないらしい。惑星昆虫学者の田茂木茸雄は、ハッチを開けて出て来るなり、深い憂慮の色を顔に浮かべた。

☆「これが直らないと、ここから出立できそうにもない…」 溜息混じりに田茂木がそう呟いた瞬間、ロロンの眼が緑色に光った。「私に任せて」と言うか早いか、ロケットのハッチを開けて中に入った。

☆3分が経過した。田茂木と白い毛皮に包まれた老人は、ロロンが出て来るのを今か今かと、それこそ固唾を飲み込み待ちわびていた。やがて、ピー!という、周波数が非常に高そうな、極めて甲高い音が聞こえた。と思うや、ロロンがガルー号のハッチを開けて出て来た。
 「直ったわ。原因はこれよ」
 ロロンが左の手に持っているものを見て、田茂木は、仰天した。何とそれは、旅立つときに彼が持参した宇宙弁当についていた爪楊枝だった。
 「あちゃー! それは俺が持ってきた弁当の楊枝じゃないか、ひょっとして?」
 「爪楊枝が、羅針盤の基盤の深い所に刺さってしまっていたのよ。きっと、衝突の際に刺さったのね…」
 「うう~…あの時ベルベルに着いた時、箱に入れてきちんと捨てればよかった…」
 「爪楊枝を外して修理波を発射したら、正常に作動したわ」

☆ロロンの機動モードには①「人形モード」②「リモコンロボットモード」③「精密機器修理モード」④「人間的思考活動モード」⑤「初期状態回帰モード」の5つがある。普段田茂木らと一緒にいる時は、④の「人間的思考活動モード」で、これを起動させると生身の人間と変わらない思考や活動が出来るのである。自らの意思によらずに人に操られる時は「リモコンロボットモード」で、これは起動させると、名の通りリモコンで動くロボットの如き機動しか出来ない状態になる。①の「人形モード」、これはいわゆる「ダッチワイフ」のモードである。ロロンを始め女形の超精巧なアンドロイドには、どのような仕様のものでも、これが標準でついている。

☆今回、ロロンが起動させたのは「精密機器修理モード」で、これを使うとどんな精密精巧な機器でも、たちどころに修繕してしまうモードだ。ロロンにはこれら5つのモードが、延髄の部分にしこんであり、④のモードでいるときに、自らの意思にしたがって、それぞれを使い分けすることが出来るのだ。なお、初期状態に戻るには、⑤の「初期状態回帰モード」を起動させる。これで今まで覚えてきたことを全て脳型コンピュータから消去出来、もとの買ったばかりの状態に戻るのだ。

☆ロロン号とよばれるこのアンドロイドを、最初に手動で起動させるには、頭の天辺にある小さな5色の起動ボタンのうち、白いボタンを押す必要がある。これを押してやると、⑤のモードになって起動し始める。赤いボタンを押すと④に定着し、一緒に暮らせる、というわけだ。ロロン号は、未使用の状態だと透明なカプセルに梱包されている。カプセルから出す時は、カプセルの横にあるボタンを押すと、頭の中の覚醒装置がセンサーと連動し、自動的に起動する。この時、モードは⑤のママである。黒いボタンを押すと①の人形モードに、黄色いボタンは押すと②のリモコンロボ・モードに、緑のボタンを押すと③の精密機器修理モードになる。

☆さて、ロロンが修理を終えたロケットのガルー号の羅針盤は、「ただいま、全ての機能が正常になりました。これから船体の体勢を立て直します」とコールした。するとガルーは、忽ち轟音をあげて、さかさまの体勢から、何時でも飛び出せる体勢に直った。

☆その時、全身を白い毛に覆われた、例の老人が近づいて言った。「ところで、おまえさんたち、これから何処へ行くのかね?」
すかさず田茂木が答えた「惑星ソラリスを経由して、エリー星へと向かいます」 老人の顔に忽ち「うわーっ」と驚きの色が顕れた。

☆「エリー星!それは我々と先祖を同じうする仲間が住んでいる星だ。語り継がれる伝説がある・・・話してしんぜよう…」老人は静かに話し始めた。


☆「古来、我々の一族は、かつて緑の美しい星に住んでいた。ところが、アグーラという自分の星を持たない種族が入りこんで、高度な機械文明を持ちこんだために、星の緑は破壊され、我々は仲間を殺され、住めなくなった。そこへある種族が現れて、アグーラの魔手から我々を救い、エリー星や他の惑星に移住させたという・・・我々が今話している言葉も、もともとはその種族が話していた言葉なのだ」。

☆田茂木とロロンには、老人のいう「ある種族」が何者か分かった。プカスカ人に違いなかった。

☆老人は話し続けた…「エリー星に移り住んだ我々の仲間は、平和裏に栄え、今はみんなで村をつくって、幸せに暮らしている。しかし、その他の星に移り住んだ仲間は、環境の変化や、他種族の襲撃などにより、ホトンド滅びてしまった。我々と同じ仲間が今でも栄えているのは、銀河系広しといえども、あのエリー星だけになってしまったようじゃ…」と、ここまで話した老人が、急に地面に突っ伏したかと思うと、ドロドロに融け始めた!

☆「うわーっ!」 田茂木茸雄とロロンは、悲鳴に近い声をあげた。今にも絶えそうな息をハァハァとたてて、老人は最後の力を振り絞ってこういうのだった。

☆「・…つ・…いに、わし・…も・…じゅ・…寿命が・…つ…尽きたようじゃわ…い…」
 「じ、じいさん!」
 「お若い…おふ・・・たり…さ…ん…元…気で・…行っ…て…くる…の…じゃ・…ぞ…さら…ジューッ…」ドロドロに溶解した老人の肉体は、瞬く間にカーキ色の砂の中に吸い込まれていった。

☆二人の胸に大きな悲しみが広がっていった。その悲しみを抱えたまま、二人はロケットに乗りこみ、この砂漠の星を出立していった。目指すソラリスは、この星系からたった1光年先にある。

☆「3、2、1、0、ごお!」けたたましく轟音と砂塵を上げて、ガルー号は目指す星へと旅立つのだった。

(つづく)
タグ:SF小説
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