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星人ロロン・第2部(10)-最終章 [ドラマ・ミニアチュール]

(久しぶりに「ドラマ・ミニアチュール」を再開する)

☆昆虫学者・田茂木茸雄の古い知り合いである最上百合子の両親が、面相の良くない彼女の恋人代わりに雇ったというアンドロイドのジークフリート。彼から朝永とドドが奪い去った黒白2つの玉のうち、白いほうには、実は恐ろしい秘密が秘められていた。

☆つまり、この玉の秘密を知らないものが、下手に弄(いじ)くると、銀河系に働いている力学の全てを変えてしまう、というのだ。ジークフリートは秘密を熟知するゆえに、眠りつづける自分の雇い主に返しに行っていたが、途中で立ち寄った水の惑星・ソラリスで朝永とドドの2人に襲われ、2つ在った玉のうちひとつを奪われてしまった、というわけだ。

☆事の重大さを知ったロロンと田茂木茸雄は、ジークフリートの話を聞いて、深く大きくうなずいた。
 
 
田茂木「これは・・・大変なことになるぞ」
 
ロロン「何とかして、あいつ等から白い玉を取り戻さなくては!」

☆やがてガルー号は、惑星エリーとソラリスとの中間にある緑の惑星、ギラに到着。ロケットは着陸態勢を整え、砂煙を上げながら、ゆっくりと着陸した。ここギラに着いたのは、ソラリスを出発しガルーが、きちんと整備されないまま、発射したので、途中で降りて整備する為である。

☆ロロンは、ロケット・ガルー号のエンジンの調子が悪くなっていないかどうか、念の上に念を重ねて調べ始めた。
 「異常はないようね」彼女はほっとした顔になった。その額には汗が光っていた。そんなロロンを見ていたジークフリートの胸は、どきりとなった。顔が火照り、胸の鼓動が、激しくなるのを覚えた。ジークフリートは大いに驚き、かつ困惑した。

 “何故?私は百合子さんを愛するべく、プログラミングされたはずなのに・・・今、目の前に居る、顔を煤と汗だらけにしているあの人・・・ロロン号に対し、胸を高ぶらせるなんて・・・俺は、いったい、如何してしまったんだろう・・・?嗚呼、胸が苦しくなってきた・・・。”

☆そんなジークフリートの心境をよそに、田茂木とロロンはガルー号の整備に余念がなかった。コンパスの中の脳型コンピュータも幸い異常なしであった。

 「これは、当初の予定を変えなくてはならないな」・・・と田茂木は、ロロンに言った。彼女がうなずきつつ「ええ」と言う。
 「本当は、惑星エリーをたずねていきたかったのに・・・この世界を守る為なら、仕方がないわ」・・・ロロンは続けた。

☆「惑星エリー?そこへ行く予定だったの?」ジークフリートが彼女に思わず聞き返した。「そうよ」ロロンは答えた。ジークフリートの眼がそのとき、光った。

☆「俺、あの2つの玉、その惑星エリーで見つけたんだ!」大きな声を出した。えっ?と田茂木が驚きながら振り向いた。「ほんとかい?君?」

☆「俺が作られてすぐ、最上家にもらわれたばかりの頃、百合子さんの家族と一緒に惑星エリーに旅行しにいったのだ。あの黒白2つの玉は、エリーの奥地にあるトゥープゥートゥー村を訪れたとき、そこの長老からもらったものなんだ。『これを持っていれば、あらゆる災難からあなた方を守ってくれる』といって、その人はあの2つの玉を私達に、とプレゼントしたのだ。そのさい長老は、さっき言った秘密を小声で教えてくれたのだ」

☆田茂木「本当は、あそこへ行って珍しい生物を調査しようと思って、エリーへ出かけようとしていたのだが、君の一件を聞いて、何とかしないといけないと思った。予定を変えて、君の玉の片割れを探すことにした、君と百合子さんと、そしてこの銀河系世界の為にね」

☆ジークフリートの眼に見る見る光るものが溢れてきた。「・・・ありがとう・・・」彼は声を詰まらせたきり、横を向いて必死に涙をこらえた。この若者にとって、自分たちの為に動いてくれる人間は、田茂木とロロンが最初だった。

☆そのときだった、全身が炎のような熱さに包まれる感覚に、ジークフリートは襲われた。高鳴る心臓、燃えるような全身、激しい息遣いと共にこんなせりふがジークフリートの口からもれた。が、それは決して声にはならないせりふであった。

 “嗚呼・・・今、ハッキリと悟った。私はスキンヘッドの男と一緒に、自分の目の前に居る美しい人を愛してしまっていたことを!でも、あの人には田茂木さんという人が居る・・・だからどんなに僕があの人を愛していても、田茂木さんからあの人を奪ってはいけないのだ・・・でも・・・でも・・・おお・・・俺の心の奥底が、あの人がほしい、ロロンがほしい、とひたすら叫んでいる!この・・・この、心の叫びをや如何がせん・・・。”

☆いよいよ明日は玉を捜しに、本格的に旅立つのだ。田茂木とロロンがあれほど楽しみにしていた、惑星エリーへの旅はお預けとなってしまったが・・・。

☆気が付けば夜。濃紺の空を見上げると、無数の輝く恒星の粒が広がっていた。鬱蒼たる森はすっかり静まりかえり、虫の音だけが、ときおりささやかに流れるのみであった。

☆明日の夜明けの出発を待つ、ガルー号の中で、3人は床についていた。田茂木とロロンは2人抱き合って寝ていた。2人からやや離れたところで、ジークフリートは毛布に包まれながら横たわっていた。

☆「うう・・・ふうう・・・ぐうう・・ぐっ、うっ・・・」彼は獣の唸り声のような、荒い息遣いをしながら、ゴソゴソ毛布の中でうごめいていた。やがて、

 「うおおっ!」
 
 という雄たけびに似た声をあげたあと、すぐに彼は寝息を立てて、眠りについた。

 (この項おわり・この物語はフィクションです)

タグ:SF小説
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