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銀河系・明日の神話(5) [ドラマ・ミニアチュール]

●エリーに迫る危機(2)●


①新進気鋭の惑星生物学者・岩沢真佐雄と、彼の婚約者となった若き惑星考古学者・森沢乃理子は、二人して最新型の宇宙航行機で、緑濃き豊穣の惑星エリーを訪れ、その予想以上の荒廃した姿に驚愕と悲嘆を感じつつ、東南東にある、未だ緑深き鬱蒼たる森に覆われた、二人の思い出に残った村を目指して、また航行機に乗って旅立っていった頃、エリーの南東では、とんでもない事が起ころうとしていた。↓

②エリー南東にある、熱帯性の木々が茂り、馨しい香りを漂わせる花々が咲き誇る湿地帯・プルーレ。その中心にある田牟礼湖は、この地を初めて訪れた地球人の地質学者によって発見され、その名をとって命名された、エリーの中でもとりわけ、ぴか一の美しさを誇る湖である。

③湖の周囲には、地球では人類登場以前に繁栄していたシダ種子植物の仲間や、古生代に繁栄した「鱗木」「ロボク」など、地球上ではもうとっくに滅びて、化石という形でしか見れなくなった古代の草木とよく似た植物群が生い茂り、その合間には、地球では見られない、珍しい花々や草木が繁茂し、馨しい芳香を発して、訪れる観光客や学者たちを魅了しつづけていた。

④湖の中には、不思議な魚が沢山棲息していた。ナメクジウオ(=脊索動物の一種。脊椎動物の直接の子孫となったとされている)によく似た「ぺカイア」と呼ばれる生き物も多数棲息している。巨大な淡水性のシーラカンスにソックリな肉鰭類(=肺魚やシーラカンスの仲間)の魚が悠々と透明な湖の底を泳いでいる。水面近くには、球体のような姿をした河豚(フグ)に似た体の特徴を持つ魚が、ひもかわうどんのような尾ひれを振って、まるで巨大なオタマジャクシさながらに、愛らしく踊っていた。

⑤湖の中に棲む生物の中で、生物学者や地質学者らの注目を集めている生き物があった。それは地球の古生代、カンブリア紀に栄えた当時最大の生き物で、食物連鎖の頂点に立っていた「アノマロカリス」に酷似した節足生物である。この生物は湖を発見した田牟礼博士によって「メタ・アノマロカリス・エリーイ」なる学名がつけられた。

⑥地球でとっくの大昔に滅亡したカンブリア紀最強の生き物とそっくりな生き物が、地球から何億光年も離れた緑の惑星の、鬱蒼たる森に囲まれた湿地帯の淡水湖に棲息しているとは、湖を発見した田牟礼氏も、さだめし仰天したであろう。現に田牟礼氏は、湖の水質調査の際、偶然にもこのメタ・アノマロカリスを発見して、それこそ腰を抜かさんばかりに驚いたという。

⑦田牟礼氏を仰天させた湖の生物は、他にも、これも地球ではとっくの古生代、ペルム紀に絶滅し、化石でしか観る事のない「三葉虫」によく似た生き物がある。湖底でこれがゴキブリのように忙しなくあちこちをすばしっこく動いているのである。早速氏はメタ・アノマロカリスや三葉虫を採集し、特徴などを記録して、生きたまま特殊容器に入れて、ロケットで地球へ持ち帰ろうとしたが、途中でみんな腐敗して死んでしまったそうである。

⑧その他にも驚愕すべき生き物が沢山居る、そんな田牟礼湖のほとりで、ぱっと、黒い霞がかった、投網のようなアミが投げられた。と思う間もなく、網には沢山の魚が掛かった。湖の水面ちかくで尻尾を振って泳いでいた、可愛いまん丸の淡水河豚たちだった。

⑨投網が投げられたあたりの深い茂みから、明らかにオヤジじみた、男たちのボソボソ声が聞こえてきた。二人居るらしい。

 「沢山取れたな」
 「うむ」
 「これで今夜の夕食はオッケーだな」
 「食糧になるものはこれで全て調達できた!」
 「早速、仕度に取り掛かろうぜ」

⑩…ズルズルズル…獲物が入った投網を引きずる音が聞こえ、だんだん遠ざかっていく。


⑪密林の奥にある、迷彩柄のテント。さっきから四角く切った窓から明かりが漏れている。カチャカチャと食器をかき鳴らしていると思しき、金属同士がぶつかる耳ざわりな音や、ジュルジュルと何かの汁をすする音も聞こえている。

⑫テントを覗くと、中に汚い天然パーマのふけた男と、真っ赤なモヒカンの鬘をかぶった男、そしてまるで人形のような生物感のない、無表情な男の3人が居た。3人ともみな迷彩のつなぎを何故か着ている。縮れ毛はドド・アスベン、モヒカンは朝永、そして無表情はアスピナーレである。

⑬「まだこねぇかな、あいつら…」飯盒にある飯をかっ込みながら、ドドがボソッと言った。
 「あいつ等が此処へ来るというのは、とっくのとうに解っているから、ずっと3箇月から先回りして待ってるんだけどな」
 続けてアスピナーレが言った。
 「何時になったら来るんだ?このままいくと、この惑星にあるもの全て、俺たちが全部食い尽くしちまうよ」
 朝永が、アルマイトのスープ皿に盛られた、あの丸い河豚をクタクタになるまで煮込んだスープを啜りながら喋っ た。

⑭このプルーレの森には、これまた興味深い生き物が沢山いた。えもいわれぬ美しい囀りを聞かせる、エリーを代表する鳴く鳥(鳴禽類)、レインボー・ナイティンゲール(虹色小夜鳴き鳥)。その名の如く全身が金属光沢を持つ、七色の羽毛に覆われた、小さな鶯によく似た背格好の小鳥である。

⑮それからアパパネ。エリーには珍しい外来種で、地球のハワイが原産地だが、ハワイが激しい温暖化の果てに砂漠の島と成り果てつつあった頃、鳥類学者をはじめとするプロジェクトティームが、数億光年の距離も厭わず、この惑星エリーに移植させた、紅の羽色をした美しい鳥である。アパパネも今やすっかりエリーのこの地、プルーレの森に馴染んで、虹色小夜鳴き鳥などと共存共栄している。

⑯その他、地球で絶滅危惧種に指定されているスローロリスに似た、現地の人は“プークチム”と呼んでいる原始的な猿や、これも地球ではとっくに滅んだ、森林最大の肉食獣・スミロドン(サーベルタイガー)ソックリの虎など、様々な生物たちがこの森の中で息づいていた。

⑰さて、夜が今しも明けようとしている時、東の空から太陽が、森から遠く離れた沙羅曇(さらどん)平野(これも東洋人によって発見された平野。発見者の沙羅曇博士の名をとって命名された)の地平線を明るい朱色に染めて昇らんとする頃、まだ星が瞬く藍色の西側の空から、周囲の星たちよりも、ひときわ明るい光を放つ一点が、物凄い速さで徐々に地上に近づいてきた。やがてそれは大きくなり、姿がはっきりしてきた。…やがて全貌が現われた。それは銀色をした、高出力ガスタロンエンジンを搭載した、ガルー号ロケットだった。

⑱ゴゴゴゴ…ゴォーッ。轟音を上げてエンジンを噴射させつつ、ロケットは無事体制を整え、沙羅曇平野に着陸した。間もなくハッチが開き、何処かで新調したらしき、ピタピタの宇宙服を着た男女3人が、この緑の平野に第一歩を記した。
惑星昆虫学者・田茂木茸雄と、その助手ロロン、そしてホトンドが有機アミノ酸の海だけの惑星・ソラリスで彼等に命を救われたジークフリートの3人である。

(6)に続く・この物語はフィクションです。
タグ:SF物語
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