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銀河系・明日の神話(7) [ドラマ・ミニアチュール]

●エリーに迫る危機(4)●(第1章終わり)

☆毛むくじゃらの巨人・プルプルと、真佐雄と乃理子が互いに抱き合い、飛び跳ねながら喜び合っているところへ、集落の他の住人たちも、わあああ~!! と歓声を上げて、わらわらと村の広場に集まってきた。そして真佐雄と乃理子をこちょこちょとくすぐり始めた。ワハハハハ・・・2人は身体をよじらせながら、楽しそうに笑っていた。集落の人々は、みんなプルプルと同じように、緑色の毛皮に覆われた姿をしている。

☆やがて、村人たちが彼等3人を囲み、優しい歓迎のメロディを口ずさみ始めた。プルプルも村人と一緒に歌い始めた。彼等「トゥープゥートゥー」村の住人たちの、土着の言葉は、「歌」=メロディなのである。真佐雄と乃理子にとって、それは懐かしい思い出の歌声だった。真佐雄と乃理子は、すっかり感激し、胸がいっぱいになった。

☆乃理子は美しい眸に涙を浮かべ、長い睫を濡らしていた。荒廃しつつある緑の星の中にあっても、この村の人々は、子供の頃に会った時と、少しも変わることなく、自分たちを歓迎し、愛してくれている…。歓迎の歌の響きに包まれながら、2人は、それまでこの惑星が荒れていく悲しみに打ちひしがれていた自分達の心が、温かくほぐされ、癒されていくのを感じていた。

☆2人を囲む村人の環は、何時何時までも回っていた。

☆それから2人は、生い茂る木がそのまま家になったような家屋だらけの村の中に入り、高い樹木の上に作られた村の集会場で、住民たちの手厚いもてなしを受けた。そのとき2人は、婚約した事を村長さんに伝えた。それを聞いた巨人プルプルは、さっと立ち上がり、集会場の奥にある厠(トイレ)に入って、扉を閉め、声を殺して泣いた。

☆やがてプルプルは、初めて乃理子と会った時から、彼女が大好きだった。2人が結婚するのは嬉しいけれど、でも、好きだったんだよ、心から深く・・・愛して、いたんだよ…♪と、乃理子の幸せを願う一方で、彼女が真佐雄の嫁さんになるということへの一抹の寂しさを即興のメロディにして、泣きながら厠の中で歌っていた。

☆余談だが彼が座っていた便器…実は最近になって地球から齎された、洋式便器であった。

☆さて、宴会の酔いを覚まそうとトイレへと向かう廊下を歩き始めた真佐雄は、えもいわれぬ哀愁のメロディが厠の扉の向こうから、幽かに流れてくるのを耳にした。「プルプルかい?」歌がピタリと止んだ。何時からか真佐雄の背後に乃理子もいた。扉の向こうで、巨人の体がカーッと火照った。

☆「お願い、もう一度歌って…」乃理子が厠の扉の外から優しくこういうと、プルプルはもう一度、哀愁のメロディを歌い始めた。優しくも悲しみと寂しさが篭もった響きの歌は、乃理子を涙させた。プルプルが歌いながら、厠から出てきた。彼のビー球のようなまん丸い眸が涙で濡れていた。真佐雄も泣いていた。巨人は彼等2人を優しく抱きしめ、何時までもその歌を歌いつづけていた。

 ♪始めて会ったときから、乃理子、君が好きだった・・・
  2人が結ばれるのは嬉しいけれど、・・・
  乃理子・・・ボクは本当に好きだったんだよ・・・
  心から君を・・・深く愛していたんだよ・・・♪

☆プルプルの厚い胸板と二つの腕(かいな)は、とてもたくましく、温かであった。宴会に集っていた他の村人も、何時しか3人の周りに集まってきて、泣きながら唱和し、真佐雄と乃理子の門出を祝った。

☆翌日、彼等2人は、嘗てこの村で、結婚の印として乃理子には赤い珠を、真佐雄には黒い珠を、子どもだった2人に差し出した、あの年老いた長老の葬られているという、村の墓所に案内された。

☆恩義あるかつての長老に、婚約の報告をするのだ。墓所は家屋と同じく木の上にしつらえられていた。2人は案内役の村人やプルプルとともに、座って深々と礼をし、慰霊のメロディを口ずさみ始めた。神聖で麗しい旋律が響き渡る、厳かな雰囲気に包まれる中、地球人の若者と乙女は、ともに純潔を意味する白い衣に身を包み、プカスカの言葉で婚約の報告をした。そして各々持ってきた、赤と黒の珠を墓前に捧げた。

☆墓所を後にした2人と、トゥープゥートゥー村の2人は、村の広場に向かって歩き出した。すると、そのとき…。


☆ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!と、まるで地響きのような轟音がしたかと思うや、いきなり向こうから巨大なユンボ(重機)が姿を現わしたではないか。それはまっ黄色をした、パワーショベルではないか。

☆うわーッ!彼等4人は悲鳴をあげながら、パワーショベルから逃げようとした。必死に逃げた。パワーショベルから大きな割れ鐘の如きだみ声が聞こえた。地球からこの惑星エリーにわざわざやってきた、地上げ屋だった。

 声「こりゃー!!! 今度こそ土地を明渡して貰うぞー!! トゥープゥートゥー村のしょくーん!! お前等の土地は、おれらのモノにとっくになってるんだよー!!」情け容赦なくゴゴゴゴ…!と轟音を上げて突進する巨大ユンボ。

☆4人はもう兎に角逃げる事で精一杯。しかし・・・

 「オラオラー!! 言うこと聞かんと、このジャンボキャタピラで轢いたるどー!ハハハハハハハ…!」

☆…パワーショベルは、追いまわす事をやめない。事態を知った村人たちがすぐにやってきて、漸く4人をかくまった。…む?…一人足りない!
 
 真佐雄「プルプル!」
 乃理子「プルプルは?!」

☆プルプルは何と、巨大パワーショベルのキャタピラにしがみ付いていた。彼は怒りを込め、怪力を発揮して、キャタピラを止めていた。彼は叫んでいた、

 「此処から先は・・・行かせはしない!村は俺たち『トゥープゥートゥー』族のものだ!うむむむ・・・」

☆地面に減り込んでいた彼の短足が、パワーショベルのキャタピラの駆動力に押され、ズルズルと集落の側に進んでいく。

 「ぷ・・・プルプル!」

☆彼の形相は必死そのものだった。ついにキャタピラが止まり、重機の運転席から迷彩服の男が降りてきて、手にしていた長い鉄パイプを、プルプルに打ち下ろした。
 
 「何だおまえは!離れぇやぁ!さっさと!」男が叫びながら鉄パイプを打ち下ろす。

 バシーッ!バシーッ!バシーッ!鉄パイプは容赦なく、プルプルの逞しい肉体に打ち下ろされる。
 「あ、あああーっ!」背中の皮が裂け、鮮血が飛び散る。深紅の薔薇の花びらのように・・・。

 「や、止めろー!! わーん・・・!」 悲痛な声をあげて泣き出す村人たち。泣き声は悲痛な旋律となって、緑濃き村中に響き渡った。

 ウィーン、ウィーン、ウィーン・・・。

☆「ぐああああー!」 野太い悲鳴をあげてもだえるプルプル。そのときだった。
 
 
☆ピイイーッ!鋭い何者かの鳴き声が聞こえたかと思うや、真白い優雅な鳥が現われ、鉄パイプを持つ男を突っつきだした。

 「トウーンだ!」 真佐雄が叫んだ。銀河系の生命が息づく星では何処でも見かける優美な白い鳥・トウーンである。それは地球で「白鳥」と呼ばれている鴨族の鳥と酷似していた。

 ひ、ひえええええ・・・!!

☆男はたまらず、ユンボに乗り込み、ゴゴゴゴ…と轟音を上げ、ほうほうの体(てい)で逃げていった。
 「クソー、覚えてろよー!!」

☆九死に一生を得たプルプル。真佐雄と乃理子、他のトゥープゥートゥー村の人々がわーっと寄って来て、プルプルを担ぎ出していった。彼の背中は皮膚が裂け、赤い肉が見え、緑色の毛皮は赤黒くなった血がこびり付いていた。

☆血とあざだらけになったプルプルを、2人は心を込めて介抱し、数日間看病した。村に生えている傷によく効く生薬「パシナラ」の煎じ薬を与えつつ、様子を見ること1週間。プルプルの傷はみるみる良くなり、容体も快方に向かっていった。傷の癒えつつあったプルプルは、真佐雄と乃理子の前で、こう語った。↓

 「あの時、トウーンが来てくれなかったら、僕はあの巨大なユンボの下敷きになってたかもしれない・・・」

☆その夜のこと。真佐雄と乃理子は身体の包帯がまだとれていないプルプルに呼ばれた。今夜はそばにいてほしいと、彼は2人に歌で伝えた。それは何ともいえない、甘い魅惑のメロディであった。

☆やがて3人は互いに愛の大切さ、愛の欠点について、長いこと、夜のふけるも忘れ、語らっていた。

☆深夜、語り疲れた3人は身体をくっつけて、フトンに包まってすやすやと眠り始め、夢の世界に入っていった。真佐雄は乃理子の身体を、マラソン選手のように引き締まった逞しい胸に引き寄せ、優しく抱きながら眠っていた。

☆包帯を巻かれたままのプルプルは彼等2人の横で、“出来る事なら・・・この娘を・・・乃理子を・・・でも、それを・・・やっては・・・”と考えていた。そのうちにうつらうつらとして、すぐに眠りに落ちていった。

☆プルプルは、その夜、乃理子を掻っ攫って、駆け落ちする夢を見た。彼女は薄衣を纏っただけの姿で、プルプルの夢に現われた。夢の中の2人は、森の中を必死に歩いて、まだ見たことも行った事もないという“謎の桃源郷”を目指していた。はっ!として目が醒めたとき、

 「俺としたことが…!何故あんな夢を」 巨人は又も、全身がかぁーっと熱くなるのを覚えるのであった。

☆夜は白々と明けようとしていた。プルプルは立ち上がり、木々の梢を赤く染めて昇る太陽を見つめたあと、厠に入った。

(終わり)・この物語はフィクションです・第2章へ・
タグ:SF物語
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