SSブログ

銀河系・明日の神話(8) [ドラマ・ミニアチュール]

●プルーレ湿地帯の密林にて●・第2章・


★数ヶ月前から、この惑星エリーにやって来て、何かを待っているらしき3つの影がある。昆虫学者の朝永、物理学者のドド・アスベン、ロボット工学者アスピナーレの3人だ。

★何れも「科学すること」を生業にしている身でありながら、堅持すべき知性と理性を放り出し、一人の機械女を若き昆虫学者のもとから収奪し、おのおのの卑しき欲望を満たすだけの道具にすることしか、今は考えていない。

★その機械女を一番欲しているのは、ほかならぬ朝永、田茂木と同業のこの男である事は言うまでもない。彼女を奪うべく、彼は2人の共謀者とともに、彼等より先にエリーに来て、彼等がやって来るのを今か今かと待ち構えているのだ。

★「何とかしてロロン号を田茂木のところから奪って、頭の天辺の白スイッチを押したいものだ。初期設定に戻してから、ダッチワイフモードのボタンを押して・・・そのままにすれば、永久にあの娘は俺のもの・・・クヒヒヒヒヒヒ」卑しい笑いを口から漏らす朝永。
 
 アスピナーレ「おい、見つかったら如何する!聞こえているぞ・・・!」

★3人がいるのは、湿地帯プルーレの真ん中にある田牟礼(たむれい)湖のほとりの、彼等によるアジトのテント。

 朝永「平気だよ。まだ奴等はここまで来てねぇよ」
 
 ドド「お前の笑い声は、でかすぎるんだよ!」 

★朝永はドドにこう反論した。「此処は何処だと思う?湖を発見した田牟礼博士と数人の学者以外、誰も知らない湖なんだぜ!あいつら如きが・・・知ってるわけないじゃん」


★しかし・・・朝永の考えは、如何やら覆される運命にあるようだ。 実はジリジリと、田茂木、ロロン、ジークフリートの3人が、このプルーレ湿地帯目指して進んできているのだ!


★惑星エリー上空を、高出力ガスタロンエンジンを搭載し、コックピット中央に最新鋭脳コンピュータで動く超高性能インテリジェンス・ギャラクシーコンパスをそなえた、銀色の宇宙航行機・ガルーに乗って飛ぶ3人の若者たちの眼前に、熱帯性の樹木の、こんもりとした塊が出現した。コンパスが目的地の名前を告げた。

 「間もなく、エリー星南東の方角にある、熱帯性湿地帯上空に差し掛かります。これから噴射口の角度を90°垂直にして着陸態勢に入ります。クルーの皆さんは保護ベルトをしっかり締めてください」

★コンパスの脳型コンピュータには、プルーレのある場所など、とうにお見通しなのだ。「解っているさ」操縦桿を握る田茂木がつぶやいた。

★ゴゴゴゴ・・・ガルー号は噴射口の角度を垂直に変え、着陸モードに入った。やがて湿地帯の木々のないところにゆっくりと着陸しようとしていた。轟音は次第にゆっくりになり、熱風が巻き起こり、草が埃とともに舞い上がった。

★ロケットは無事に着陸を遂げた。ハッチが開いて、タラップが伸びると、ピタピタした服に身を包んだ3人の若者が次々にタラップを降りてきた。先頭の者が重たいヘルメットを外すと、艶々したスキンヘッド男の顔が現われた。田茂木茸雄である。そのすぐ後ろでヘルメットを外したのが、ロロンである。彼女のサラサラした、美しい黒髪が、さっと温い風に靡く。ジークフリートがその様を見る。

★靡く彼女の髪から匂う微かな芳香は、100年ほど前に当時最新のバイオテクノロジーの力で誕生した、バイオ・ブルーローズのほのかな甘い香りであった。これを嗅いだジークフリートの心はいっときのあいだ、甘美な幻想で満たされた。「行こう」田茂木の一声で、彼ははっと我に返った。・・・程なく一行は、プルーレ湿地帯の東側の茂みに入っていった。


★東側の茂みに入った。野営の為の簡易テントを張る手伝いをしながら、ジークフリートはロロンを時々見つめて、こんなことを考えていた。

 “あの子が私のものになってくれるなら、・・・仮令一時でもいい・・・あの子が私のものになってくれたら・・・!”

★ロロンは、田茂木と一緒に、昆虫採集用の器具一式の用意や観察撮影の為の超小型デジタルカムコーダの設置など、生物調査用の機器の準備に取り掛かっていた。ジークフリートは迷彩模様の簡易テントを雨風で外れないようにしっかりと、金杭で止めていた。テント四方の隅に穿たれた金杭の上をカン!カン!と玄翁で叩いてしっかり固定しないと、風雨が激しく吹いた際、テントが飛ばされてしまうからだ。そんな作業をしているときも、頭の隅っこでは彼女を思っていた。

★野営の準備が完了すると、彼等3人はひと休みした。プルーレ東側の、ジャングルを吹き抜ける風は、流石に熱帯性だけあって、恐ろしく湿気を含んでいた。木々の地面を見ると、透き通った美しい緑色の苔や小さな草、大木の若い苗木が茂り、それらに、キラキラと丸い、澄んだ露の珠が無数についていた。あたりは鬱蒼たる古代樹の群生ばかりである。鱗木、セコイア、古代蘇鉄、ヒカゲノカズラなど、地球でとっくの昔に滅んだ植物たちとそっくりな草木が沢山生い茂り、中心にある田牟礼湖や、森の中にも地球で絶滅した古代生物に酷似した生き物が沢山息づいているという様は、生物学を生業としている者たちの、好奇心と探究心をいたく刺激するのである。

★ほかならぬ田茂木茸雄も、惑星昆虫学者だけあって、まだ見ぬ未知の蝶類を探し当てたいという、虫屋特有の探究心が、心の奥底から、むくむくと湧きあがっているのを抑えきれなくなっていた。

 「モルディカヤ・・・!」 

★田茂木の脳裏に、盟友キメラから貰った、宝物の標本の蝶の姿がよぎった。彼は、明日にでもモルディカヤを探しに出かけたいと思った。彼はそばにいた2人に話した。
 
 「ロロン、ジークフリート。明日はこの森の中を探検するぞ」

・(9)に続く・この物語はフィクションです。
タグ:SF物語
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。