銀河系・明日の神話(9) [ドラマ・ミニアチュール]
●地球の文明に侵食されるエリー●
※トゥープゥートゥー村にて。村のとある木の天辺に設えられた、小さなゲストハウスの中に、岩沢真佐雄は一人でいた、まだ小学生だった20数年前からこんにちまでの来し方に、思いをはせながら。
※小学5年だった真佐雄と乃理子が、初めてここ惑星エリーに来た頃、地球の文明が浸透しているところは、今は砂漠化し、ゴーストタウン状態となっている植民地附近だけだった。が、その頃から、地球文明はゆっくりと、確実にエリーを侵食していた。
※緑濃き森の中にある、あのトゥープゥートゥー村だって、彼等2人が訪れた当初は、住民には「名前」というものがなく、誰でもが「トゥープゥートゥー」なる呼び名であった。それが、15年位前から、みんな個々に「名前」をつけて、呼び合うようになっていた。
※地球からやってきたある学者が「此処の村人全員の呼び名が『トゥープゥートゥー』というのは紛らわしい。一人一人に個別の名前をつけるべきだ」と村人に教えたからである。また、村の集会場にある厠に設えられた、水洗式の洋式便器も、ほぼ同じ頃地球人の「篤志家」から寄贈されたものだ。
※真佐雄と乃理子と仲良しのプルプルも、彼等と出会ったばかりの、小さかった頃は名前がないので「トゥープゥートゥー」と呼ばれていた。彼が「プルプル」と呼ばれるようになったと聞いたのは、中学生になって再び乃理子と一緒に此処を訪れた時、彼と再会した頃のことである。そのとき、彼は今ぐらいの身体の大きさに成長していたので、びっくりしたのを未だに忘れられない。その彼が2人に向かって、嬉しそうにこういっていた。
(プカスカ語で)プルプル「ねぇねぇ、俺、名前がついたんだよ!」
(真佐雄と乃理子の)2人(びっくりする)「えっ、名前?…名前が、ついたのかい?トゥープゥートゥー?」
プルプル「『プルプル』っていうのさ!地球から来た学者さんが、君に相応しいのはこの名だ、と言って、名づけてくれたんだ」
乃理子「プルプル…!あなたにぴったりの名前ね!」
プルプル(乃理子の顔を見つめて)「ありがとう…!」
真佐雄「今日から君は、『プルプル』なんだね!プルプル、これからも、よろしく!」
プルプル「うん!よろしく!」
乃理子「プルプル、何時までも私達、あなたの友達よ。ずっと仲良しでいましょうね!」 …
※あれから15年…その間に、地球上でホモ・サピエンスが長年作り上げてきた「文明の精華」なるものが、次々とエリーに上陸していった。そして今、その精華なるものが、斯くもこの翡翠の如く美しい緑の惑星に「近代化」を齎しつづけ、その「代償」としてこれまで誇ってきた、生物多様性と豊穣が失われてしまっているとは。
※真佐雄は、プルプルが自分の名前をもったことを誇らしげに、又嬉しげに話してくれた15年前を思い出し、あの時エリーに入り込んでいた地球文明の「負の作用」が、今やこの星に深刻な危機を齎している事を、深く憂えていた。
※“あの頃から、宇宙旅行を扱うツーリング会社が、“銀河系屈指の桃源郷”と銘打ち、惑星エリーを大々的にPRしていて、その影響で観光客が大挙してエリーを訪れるようになったそうだ。
※観光客のホトンドがアジア系、それも中国系とアラブ系の成金ばかりだった。そんな彼等が近年、エリーに次々と莫大なコスモ・マネーを落とすようになってからというもの、我々の文明によるこの星の侵食は一層進んだと聞いてはいた…。が、実際に此処を訪れてみて、あれほどまでに酷く進んでいるとは思いもよらなかった。…”
※“鬱蒼たる豊かな森は切り開かれ、次々とリゾート地が開発されて、星の豊穣は失われ、それにつれて地球を始めとする他所の星から、外来生物が入り込んできてしまい、在来の生き物たちは住処を追われ、中には絶滅してしまったものもある…。
※そして今や、この星の生態系と豊穣は、かなりの程度、壊されてしまった。…この間、巨大ユンボに乗ってやって来た、プルプルを負傷させた地上げ屋如きのような、土地利権に目のない連中が、今このときも、この星の何処かを荒らしているかと思うと……こうなった責任は、俺たち地球人全体にある!…”
※…そこまで思い至った真佐雄は、両方の拳をグッと、握り締めていた。拳はワナワナと震えていた。
※「真佐雄」後ろで呼ぶ声がした。はっ!として振り向くと、プルプルが乃理子と一緒にいた。
「如何した、真佐雄?顔色が青くなってるよ。具合、どっか悪いのかい?」
「い…いや、なんでもないんだ」真佐雄は慌てて、カブリを振った。その顔は心なしか青みを帯びているように、プルプルには見えた。が、彼はそれには気付かない振りをして、そっとしておこうと、真佐雄の傍を離れた。
(10)に続く・この物語はフィクションです。
※トゥープゥートゥー村にて。村のとある木の天辺に設えられた、小さなゲストハウスの中に、岩沢真佐雄は一人でいた、まだ小学生だった20数年前からこんにちまでの来し方に、思いをはせながら。
※小学5年だった真佐雄と乃理子が、初めてここ惑星エリーに来た頃、地球の文明が浸透しているところは、今は砂漠化し、ゴーストタウン状態となっている植民地附近だけだった。が、その頃から、地球文明はゆっくりと、確実にエリーを侵食していた。
※緑濃き森の中にある、あのトゥープゥートゥー村だって、彼等2人が訪れた当初は、住民には「名前」というものがなく、誰でもが「トゥープゥートゥー」なる呼び名であった。それが、15年位前から、みんな個々に「名前」をつけて、呼び合うようになっていた。
※地球からやってきたある学者が「此処の村人全員の呼び名が『トゥープゥートゥー』というのは紛らわしい。一人一人に個別の名前をつけるべきだ」と村人に教えたからである。また、村の集会場にある厠に設えられた、水洗式の洋式便器も、ほぼ同じ頃地球人の「篤志家」から寄贈されたものだ。
※真佐雄と乃理子と仲良しのプルプルも、彼等と出会ったばかりの、小さかった頃は名前がないので「トゥープゥートゥー」と呼ばれていた。彼が「プルプル」と呼ばれるようになったと聞いたのは、中学生になって再び乃理子と一緒に此処を訪れた時、彼と再会した頃のことである。そのとき、彼は今ぐらいの身体の大きさに成長していたので、びっくりしたのを未だに忘れられない。その彼が2人に向かって、嬉しそうにこういっていた。
(プカスカ語で)プルプル「ねぇねぇ、俺、名前がついたんだよ!」
(真佐雄と乃理子の)2人(びっくりする)「えっ、名前?…名前が、ついたのかい?トゥープゥートゥー?」
プルプル「『プルプル』っていうのさ!地球から来た学者さんが、君に相応しいのはこの名だ、と言って、名づけてくれたんだ」
乃理子「プルプル…!あなたにぴったりの名前ね!」
プルプル(乃理子の顔を見つめて)「ありがとう…!」
真佐雄「今日から君は、『プルプル』なんだね!プルプル、これからも、よろしく!」
プルプル「うん!よろしく!」
乃理子「プルプル、何時までも私達、あなたの友達よ。ずっと仲良しでいましょうね!」 …
※あれから15年…その間に、地球上でホモ・サピエンスが長年作り上げてきた「文明の精華」なるものが、次々とエリーに上陸していった。そして今、その精華なるものが、斯くもこの翡翠の如く美しい緑の惑星に「近代化」を齎しつづけ、その「代償」としてこれまで誇ってきた、生物多様性と豊穣が失われてしまっているとは。
※真佐雄は、プルプルが自分の名前をもったことを誇らしげに、又嬉しげに話してくれた15年前を思い出し、あの時エリーに入り込んでいた地球文明の「負の作用」が、今やこの星に深刻な危機を齎している事を、深く憂えていた。
※“あの頃から、宇宙旅行を扱うツーリング会社が、“銀河系屈指の桃源郷”と銘打ち、惑星エリーを大々的にPRしていて、その影響で観光客が大挙してエリーを訪れるようになったそうだ。
※観光客のホトンドがアジア系、それも中国系とアラブ系の成金ばかりだった。そんな彼等が近年、エリーに次々と莫大なコスモ・マネーを落とすようになってからというもの、我々の文明によるこの星の侵食は一層進んだと聞いてはいた…。が、実際に此処を訪れてみて、あれほどまでに酷く進んでいるとは思いもよらなかった。…”
※“鬱蒼たる豊かな森は切り開かれ、次々とリゾート地が開発されて、星の豊穣は失われ、それにつれて地球を始めとする他所の星から、外来生物が入り込んできてしまい、在来の生き物たちは住処を追われ、中には絶滅してしまったものもある…。
※そして今や、この星の生態系と豊穣は、かなりの程度、壊されてしまった。…この間、巨大ユンボに乗ってやって来た、プルプルを負傷させた地上げ屋如きのような、土地利権に目のない連中が、今このときも、この星の何処かを荒らしているかと思うと……こうなった責任は、俺たち地球人全体にある!…”
※…そこまで思い至った真佐雄は、両方の拳をグッと、握り締めていた。拳はワナワナと震えていた。
※「真佐雄」後ろで呼ぶ声がした。はっ!として振り向くと、プルプルが乃理子と一緒にいた。
「如何した、真佐雄?顔色が青くなってるよ。具合、どっか悪いのかい?」
「い…いや、なんでもないんだ」真佐雄は慌てて、カブリを振った。その顔は心なしか青みを帯びているように、プルプルには見えた。が、彼はそれには気付かない振りをして、そっとしておこうと、真佐雄の傍を離れた。
(10)に続く・この物語はフィクションです。
タグ:SF物語
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