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銀河系・明日の神話(12) [ドラマ・ミニアチュール]

●ロロンの受難(1)●


@惑星エリーの湿地帯・プルーレの森林で出会った、5人のエトランゼと1人のロコが、黎明の紅(くれない)の気配で目覚めだす頃、エリーから遥か離れた、有機アミノ酸を多く含む水とコラーゲンの星・ソラリスでは・・・。

@ソラリスにむかし移住し、定着したパラルー族出身の自然科学者の一人が、ロケットでエリーに向かっていた。エリーの環境や生態系の現状について、精密な調査を行う為である。

@その人物、カラルディ博士は、植物学者。といっても、その肩書きからは想像も出来ないほど、頭髪はファンキーな真っ赤で、肩までかかる長髪がのべつによく目立つ男である。今はロケット内の人なので宇宙服を着ているが、普段の服装は、黒革のライダースジャケットに、ピッタピッタで膝がわざとボロボロに裂けているジーンズ、とがったこれも革製ブーツといったいでたちで、銀河系の地球型生態系のある惑星という惑星の、数多ある植物の観察、調査、研究にその人生を費やしている。

@ご多分に漏れず、彼もいまだこの世に知られる事なく、この広い天の川銀河に点在する、緑の息づく星々の、森や林や海の中に、ひそやかに息づく新種の植物を、この手で発見してみせるという、生物学者としての野望に燃えている。野望に燃える研究者というのは、何処か狂気を秘めているものだ。カラルディの眼にも、そんな色が浮かんでいた。


@ロケットの羅針盤がエリーが近いことを報せると、彼は操縦桿を左へ傾け、エルマー・ソラ星系のある方向へと舵を切って、向かっていった。ロケットの4基のエンジンからは、青白い炎が勢いよく噴出していた。

@「さぁ、いよいよだ」そうつぶやきながら、彼は着陸の為の準備に入った。緑濃きエリーの全容が見えてきた。間もなくエリーの成層圏へ入る。かちゃり、とシートベルトを止める金属性の音が聞こえる。

@やがて、カラルディのロケットは、青白い炎のようなものを全体から噴出しながら、エリーの成層圏へと突っ込んでいった。


@同じ頃、ロロンたちのいるプルーレの西側では、何かが起ころうとしていた。昼間も薄暗いプルーレの森林地帯ゆえ、朝になってもスジのようにしか、朝日がささない。が、深く鬱蒼と茂る森の合間を縫って、朝日の光が幾つものスジとなって差し込む、そんな様は、神々しさを感じさせるほど、厳粛で美しいものであった。

@ロロンたちは、そんな光景も見ないまま、まだぐっすりと眠りの世界に入っている。他のメンバーも完全に熟睡状態である。…と、そのときである。

@RRRRRRRRR…!! 突如、田茂木茸雄の懐にある衛星携帯電話の着信音がけたたましく鳴った。
 「う・・・う~ん・・・」 
@眠い目をこすりこすり、彼は迷彩服のポケットを探って、携帯を取り出した。
 「はい・・・。うむ・・・うむ・・・。おおそうか・・・今俺たちは、エリーの南東、湿地帯プルーレの熱帯性森林の中だ。ある地点に来ると、地磁気が狂うので注意したほうがいい・・・え?俺の持っている高性能コンパスはどんな地磁気の狂った場所でも大丈夫だって?…そうか!・・・はい、はい・・解った、あとでまた連絡する、じゃな」

@電話の音で、ロロンも折角白河夜船になっていたのに起きてしまった。他の4人も、もぞもぞして目をこすっていた。 「うう~ん…誰から?」
 「友達からさ。大学時代のね」
 「どんな人なんですか?」今度は真佐雄が聞いてきた。
 「ソラリスに移住したパラルー人で、植物学者をやっている。学者といえないほどに、普段はロック歌手みたいな格好をしている、故に何処へ行っても目立つ、変わり者なのさ」
 「へぇ、あんたのそのツルツルあたまも、何処でも目立っていそうだけれどね」ジークフリートがからかうように言った。
 「余計なお世話だ(笑)」田茂木はスキンヘッドを抑えて笑った。みんな笑っていた。
 「お名前は何て言う人?」乃理子が聞いてきた。
 「カラルディ。パラルー語で“暁の使者”という意味だ。カラは使者、ルディは『暁の』を意味する」
 「暁の使者…その使者さんが、もうここに来ている、と?」ジークフリートが聞いた。
 「そうだよ、アイツは高性能のコンパスを持っているというから、ここで暫く待っていれば、必ず来るよ」
 「そのカラルディさんって、ここの植物とか調べに来たのかな」今度はプルプルが聞いた。
 「多分そうだろうと思う」
 「どんな人なのかしら?会うのが楽しみだわ」ロロンが嬉しそうに言った。
 「そうか?アイツは変人の中の変人だ。もっとも、自分でもそう言っているけどね」
 「変人の中の…?ちょっと怖いなあ」乃理子がクビをすくめた。
 「ハハ…ジョークだよ、乃理子さん」

@6人が談笑している、そのとき、迷彩模様のエアーハウスに音もなく、近づく影があった。やがて、一人の人影がエアーハウスの中から出てきた。ロロンであった。

@バケツを持って出てきたロロン。と、彼女の目の前に、黒い影がばっ!と横切ったかと思うと、たちまち彼女はその黒い影にひっ捕まえられた。

 きゃあああああああ!

@「な、なんだ!」「ロロンに何かがあったんだ!」…悲鳴を聞いてばっと飛び出す5人。が、ロロンは何処にもいない。づと足下を見ると、草木の露球を集める為に彼女が持ってきたバケツが、湿った地面の上に転がっているだけだった。

@田茂木は声を振り絞り、懸命に彼女の名を呼んだ!
 「ロローン!何処にいったんだー!…」

@「ロローン!」・・・他の4人も、彼女の名を呼んだ、が、返事はなく、ただ、森じゅうにこだまのようにむなしくひびくばかり。彼女の返事は当然ながら、ない。

@「何処へ連れて行かれたんだ!」心配の色を浮かべて、4人は、ただ、森の中にたたずむしか、今はなかった。鱗木や古代蘇鉄の樹冠のほうから、きぃーや、きぃーや!と鳴く動物の声が、大きく響いていたが、4人の耳には、それが、何処か遠くから聞こえてくる生き物の声のように、感じられた。


・(13)に続く・この物語はフィクションです。実在の人物、団体等とは関係ありません。



タグ:SF物語
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