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銀河系・明日の神話(14) [ドラマ・ミニアチュール]

●ロロンの受難(2)●


@目覚めたロロンは、欲望に狂った男たちの姿を見るなり、目をらんらんと光らせてバッ!と飛びかかった。

 「うわーっ!」

@彼女のあまりの剣幕に恐れをなしたか、男たちはテントの中からいっせいに田牟礼湖のほとりの、反対側に駆け出していく。

@「ひぃええええええ!!」叫び、逃げる男たち、追いかけるロロン、彼女の口から出た言葉は…

 “第6のモードが作動しました…第6のモードが作動しました…”

@「第6のモード」?ロロンの人工頭脳意識設定モードは確か5つしかないはず。つまり①人形モード②リモコンロボットモード③精密機器修理モード④人間的思考活動モード⑤初期状態回帰モードの五種である。それなのに、第6のモードが作動した、という。…如何やらこれは、ロロンの活動を掌る5モードの他に、脳型コンピュータに密かにプログラミングされた“秘密の”モードらしい。今回のように、彼女の身に咄嗟の出来事が起こったときに発動するもののようである。

@「わあああーっ!助けてくれえー!!」悲鳴をあげながら、逃げる3人の愚かな男たち。このプルーレの森の中は足下が非常に悪く、厚く敷き詰められた落ち葉の下にある岩や木の根っ子が、しだや苔や変形菌などと共に複雑に絡み合っている。ので、下手に早足で逃げようとすると、躓いたついでに骨折などの怪我をしやすく、更に、万が一転んだときにサーベルタイガー(剣歯虎)や体長5cmもある巨大軍隊蟻等、プルーレに棲む危険な生き物に襲われ、餌食になる可能性も高い。だから早く逃げようとしてもうまく走って逃げるのは難しい。

@それでもロロンというこのヒューマノイドは、頭頂部にある5色の小さなボタンを押せばすぐに作動出来るモード以外の秘密モードで今動いているので、こんな足下の悪いジャングルの中でも素早く動いて相手を追いかける事が出来るのだ。

@ロロンは、まだ叫んでいた。が、それは何時もの、④のモードで作動しているときのような、田茂木茸雄を愛しているあの少女の、やさしくしっとりした生々しい音声ではなく、コンピュータ合成音声特有の、生命感のない機械的な音声であった。

 「第6のモードが作動しました…第6のモードが作動しました…破壊活動モードに入っています…これから対象標的の特定に入ります…ピーッ」

@もはや彼女は、あの優しい少女ロロンではなく、ただの精巧に作られた、電子式精密機械の一種に過ぎなかった。その精密機械の、眼球の奥が、赤く光った。と思うや否や。

 びぃぃぃぃぃーっ!

@鋭い電子音と共に、彼女の二つの眼から赤い光線が発射された。既に標的は3つに絞られ、光線はその3つに向かって発射された。

 ばああああっしゅ!!!

@一瞬の内に、3つの標的は、ジャングルの土の上に、ばたっ!ばたっ!…ばたっ!と相次いで倒れた。ドド・アスベン、朝永、アスピナーレの3人だった。

 「う、ウウ…な、何だ…今のは・…うう…」

@まだ息のある朝永がかすかに手を動かしながらうめくようにつぶやいた。あとの2人は、如何やら頭を打ち抜かれ、即死んだようだ。

 「ロ・・・ロロン・・・お、・・・まえ・・・が・・・」

@朝永はそういいかけると、落ち葉が敷き詰められたジャングルの地面にどさっとうつぶせになったきり、二度と動かなくなった。

@ロロンの秘密モード。それは彼女とジークフリート号の開発者・プーロン忍成博士が密かにこのロロン号の、脳型コンピュータに仕込んだ⑥破壊活動モードであった。実はこれが作動したが最後、もう元の5つのモードの、いずれかに切り替わる事は出来なくなるように、量産型に切り替える際、博士がプログラミングしたのだった。

@惑星昆虫学者の田茂木のパートナーをしているこのロロン号を始め、全ての量産型ロロン号は、自分自身に確実に危険が迫ると、途端にこのモードに切り替わるように出来ている。そしてこうなったら壊れるまで、二度と元には戻らないようになっているのだ。

@然し何故博士がそのようなモードを彼等の脳にプログラミングしたのか、意図は全く不明。だが、ロロン号を製造出荷しているアンドロイド企業の従業員及び役員は「ひょっとしたら、あの人は、何れこの製品をハイパー兵器として、銀河系内外の各惑星の軍隊に送り込むことを考えているのかも…?」と密かに噂しあっていたそうな…。

@「ぴーっ、ぴーっ、次の標的は、東南東2㎞にあり」最早電子音声しか発しない、ただの、ものを壊しまくる機械でしかないこのヒューマノイドは、今度は嘗て自分の相棒だったはずの、田茂木たちを標的にし始めたようである。早速きびすを返して、ヒューマノイドは、今来た道を戻っていった。

@丁度その頃、ロロンがいなくなって腑抜けになってたはずの田茂木茸雄が、流石に心配になったのか、鬱蒼たる視界不良好な森の中を、彼女を見つけるために、足下がふらふらするのも構わず、探し回っていた。

@ヒューマノイドの眼が又も赤く光った。「前方に標的発見、殺傷光線発射の準備に入ります」 その標的とは…嗚呼、田茂木茸雄その人だった。

@もうこのロロンは田茂木の知っている、お互いに心から愛し合っていた間柄の、あの優しい少女ではなく、ただの人殺しの機械に過ぎないのだ。それを知らないで彼女を探し回っている田茂木。彼の命は、あともう少しで、彼女の手によって奪われようとしていた。田茂木に危機が迫った、まさにその時…!

 ゴロロロ…ドドーン!! 

@遠くから激しい雷鳴が轟いたかと思うや、田茂木の視線の向こうで、急激にぴかっ!とこれまでにないほど、眩しく激しい閃光が炸裂するのが見えた。

@森中の鳥という鳥、小さな生き物という生き物が、いっせいに驚きの鳴き声を揚げた。その頃、何処を探してもロロンが見つからないので、田茂木がロロンを探しに行くのと入れ替わりに、エアーハウスに戻っていた4人も、この激しい雷鳴と動物の騒ぐ声を聞いた。

 「GPSから今発信があった。田茂木さんに何かあったかも!」真佐雄が言った。
 「急げ、何かあったら大変だ」今度はプルプルが急いで仕度しながら言った。

@4人は急いでエアーハウスを出て、田茂木を探しに出かけた。


@一方、稲光が落ちたところへ、田茂木は漸くたどり着いた。彼は黒焦げになった、木の葉が敷き詰められた地面を見た。まだ燻り続けているらしく、白い煙がまだゆらゆらと立ち込めていた。何か肉のこげたにおいと、金属質のものが焼けた臭気が混じった匂いがしていた。地面をよく見ると、それは人形(ひとがた)をしていた。

@彼はヘンな胸騒ぎを覚えて、急いで其処に近づこうとした、が、途中で石に躓いたか、どてっ、と転んだ。転んだついでに何かを掴んだ。瞬間、彼の全身から一気に血の気が引いた。

@それは音声を発していた。妙齢の女の発する、人間の生々しい声だった。それは、自分が常に聞いたことのある、人物の声そのものだった。そしてそれは・・・


 「茸雄さん・・・茸雄さん・・・何処にいるの?・・・茸雄さん・・・」

@自分が今さっき手にした、小さな球状のものから出ていた声は、まぎれもなく、彼と一緒にいた、あの懐かしいロロンの声だった。彼は、のどが張り裂けんばかりに、絶叫した。

 「うわあああーッ!」

@それは田茂木の心の底からの、精神の断末魔の声だった。


・(15)に続く・この物語はフィクションです。実在の人物・団体・企業とは関係ありません。


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