土曜日。

☆昨日、東京はやや曇りがちだったが、過ごしやすい日となった。…何時もの午前中の仕事が退けたあと、私は等々力操車場ゆきのバスに乗り、東京都自然教育園の手前で降りた。

☆去年の秋にはじめて尋ねた、自然教育園。草木は既に“枯れ色”になり始め、秋特有の寂しい気配が周りを満たしはじめていた。秋の花々…曼珠沙華（彼岸花）、ほととぎす、萩、その他諸々…が、ささやかな命を眼一杯輝かせるように咲き初めていた。幾ら人の世が移ろうと、草花や虫など、小さき命は懸命に自分の生を生ききろうとする。その姿に感銘しつつ、歩いたものだった。

☆久しぶりに訪れた教育園で見たものは、可愛らしい白花、黄色花の群生…。にりんそうの可憐な花姿に、つい「可愛い！」と口走った自分がいた。アザミも既に草姿が大きく成長し、じきに花が咲くだろう。

☆人が歩けるように整備された道を歩く。ここの緑に触れ合う為にやって来た行楽客とすれ違う。この自然教育園は何でも、縄文時代に既に人が住みつき始めた場所でもあり、白金長者と呼ばれた古（イニシエ）の実力者の土地でもあった場所でもある。自然教育園として整備され始めたのは昭和戦後のことだそうな。

☆さて道を歩くと、紅葉林の新緑が眼に染み渡るあたりに、巨木の影がぽつらぽつら見える。近づくと、のべつに巨大な老松の姿が。江戸の頃からある老松らしく、大きなウロコのような皮に覆われた幹に触ると、この巨木が生きてきた、長い長い時の流れを分け合える、そんな気がした。

☆水生植物園のある所に来た。枯れた葦の群生地から新芽が吹き出している。青々と真っ直ぐ伸びる新しい葦。これから夏に向け、丈が人の背丈近くに伸びることだろう。葦のまわりに丁子草と呼ばれる、星型の青い花を咲かせる植物が生えていて、そこへモンシロチョウやキチョウ、アゲハなどが可憐に舞いながら訪れていた。

☆キランソウの青紫の花が咲いているあたりでは、これまた青紫の羽根を広げる、可愛らしいシジミ蝶と遭遇できた。…この自然教育園を再訪して気になったことといえば、でっかい鴉ばかり目立ったことと、蝶や花アブ以外の、春の昆虫たちに会う機会が少なかった事くらいか。上野もそうだが、東京の公園って何故こうも鴉が多いのかねぇ。

☆その後、目黒駅前までトコトコ徒歩で。途中テディベアなど世界のいろんなぬいぐるみを集めたショップに寄る。基本的なテディよりも英国発の“チーキー”ベアが多かったなぁ。シュタイフなどのものと異なり、両耳の位置がコメカミの横近くにあり、頭の丸さを強調している。おまけにその名の通り、口元のにやけた生意気そうな（＝cheeky）顔。英国人はみんなこのベアが好きなのかな。頭の天辺の毛が立っている、パンクヘアのチーキーもいたしなぁ。

☆目黒駅前「アトレ」に着く。お昼を取ったあと、5階の「有隣堂」なる本と文具を扱う店に。書店は4階にあり、そこへいって、これは！と思って選んだ本は、文庫本「ニッポン戦後重大事件史」（新人物往来社刊）。そのあと、三軒茶屋ゆきの東急バスに乗り込む。バスは細い路地を行ったり、広い道路に出たりして、漸く三軒茶屋駅前に着く。

☆三軒茶屋の「キャロットタワー」3階のTSUTAYAの本屋にて、やっと本命、お目当ての本を見つけた。廣済堂新書・「奇跡の脳の物語」（茂木健一郎著・￥840（税込み））。前書きをちょっと読んだけど、脳ってぇのはやっぱり千差万別、十人十色、みんながみんな、違って当たり前なのよねぇ。

☆因みにこの本は、フジTV「ザ・ベストハウス123」の“奇跡脳シリーズ”の新書化ということで、映画「レインマン」の樹主人公のモデルになった「人間百科事典」「キング・オブ・サヴァン」ことKim Peek、まるでカレンダーのように昔の日にちを正確に覚えている男や、脳の半分以上を失いつつも奇跡的に機能を回復した若者など、脳にダメージがあっても健気に生き、素晴らしい能力を発揮している人々を紹介している。

☆自分も昨年だかに放映された本放送を観て思ったけれど、こういう人たちって、家族や周りの人たちの深い理解や愛情のお蔭で、素晴らしい才能を発揮しているだけでなく、みんなに人として生きるに必要な“何か”を与えているのだよなぁ。

☆それにつけて思うのは、日本で今行われている「文部科学省推奨の教育」というのは、こういう人たちを「養護」しているように見えて、その実、案外「疎外」しているんじゃないか？「普通」じゃないからといって。でも（「奇跡の…」のまえがきにもあったが）「普通」って一体何だろう？という問いを真正面から捉えて考えようとする時、誰もがきっと頭を抱えるのじゃあないかな。

☆兎に角、この連休中、「奇跡の…」を読んで、「普通とは何か」ということについてじっくり考えるのもいいなと思う5月最初の、日曜の昼下がり。