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あれから6年…TVはやはりつまらない。(書評) [雑文]


テレビはなぜ、つまらなくなったのか―スターで綴るメディア興亡史

テレビはなぜ、つまらなくなったのか―スターで綴るメディア興亡史

  • 作者: 金田 信一郎
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2006/06
  • メディア: 単行本



★自分は2006年の夏ごろ、本書を購入した、仕事をしている現場近くのコンビニで。読んでみて非常に興味を引かれた。同時に、日がな一日TVを見ていた、「テレビっ子」だった、あの頃の私を懐かしんだ。

★プロレスラー・力道山が街頭TVで人気を集めていた頃から、この“魔法の函”は、人々を虚構のファンタジーへと導く魔力を持っていた。そしてその魔力ゆえにひきつけられた様々な“天才たち”がもてる力と才能を発揮したが、やがて時の流れとともに、天才たちは劣化しゆくTV業界に見切りをつけ、ブラウン管を去っていった。後には、中途半端な“凡才たち”の“お祭り騒ぎ”だけが残った。・・・これが、本書のあらましである。

★1958年、日テレを皮切りに民放TVがスタートしてから、名だたるスターがTV画面に登場しては、消えていった。それは昭和から平成にかけての復興~激動~爛熟~頽廃~衰滅の各時代を彩ってきた「時代の生き証人」たちでもあった。力道山、山口百恵、長嶋茂雄、北野武、角川春樹・・・彼らは皆、強烈な個性と魅力、そしてクリエイティヴィティをもった「天才」たちであった。

★時代の足音に合わせるかのように発展し行くTV界は、1950年代後半~’60年代にかけ、それまで娯楽の王者だった映画界に食指を伸ばし、スターを番組に出演させたりして映画界を衰退させ、ひいてはかの黒澤明まで自宅での自殺未遂に追い込んだ。そういう裏話は読んでいて、極めてエキサイティングであった。

★黒澤明が表舞台から消えた後に登場した角川春樹は、TVと出版界と映画界とのメディアミックス戦略に成功し、「犬神家の一族」はじめ「人間の証明」、「セーラー服と機関銃」、「探偵物語」などヒット映画を次々と世に送り出した。然しこの手法もTV業界に見事に吸収され、今ではフジテレビなどが「踊る大捜査線」シリーズや「SP」など、ヒット映画をドンドン手がけるようになる。しかし著者は、こんなTV的手法による映画の質的劣化を憂慮する。本書初版の発売から6年経った今、その憂慮はほぼ的中している。

★実際、アカデミー賞やカンヌなど主要な国際映画祭で、TV局が絡んで製作した今風の日本映画が、オスカーやパルムドールなどの大きな賞はおろか、小さな賞すら獲ることは非常に難事なのだ。(北野武or宮崎駿作品は別として)。仮令小さくても賞を摂るのは「キャタピラー」(寺島しのぶ主演)など、TV局とあまりつながりのない、無名・有名問わず優秀な監督のもと、低予算の中、つくり手たちが創造力を遺憾なく発揮して作った作品のみである。

★さて、物心つく頃から「てなもんや三度笠」(ABC朝日放送)、「シャボン玉ホリデー」(日本テレビ=日テレ)、「巨泉・前武ゲバゲバ90分!」(同)、「もーれつア太郎」(NET=日本教育テレビ=テレビ朝日)、「仮面ライダー」(毎日放送)、「まんが日本昔ばなし」(同)、そして「8時だョ!全員集合」(東京放送=TBS)、「オレたちひょうきん族」(フジテレビ)など、それこそ“眼が肥える”ほどTVを見つづけてきたひとりとして、私はきょうびこの頃のTVの劣化現象はこの本が出る前からトテモ気になっていて、時折ブログに書いたりもしてきた。今6年経って思うことは、当時も現在も、TVはやはりつまらない、ということなのだ。即ち、少しも改善されてない、ということなのだ。

★現場の人たちは本当にいいものを作ろうとして頑張ってはいる。現に私が毎週見ている番組の中にはきらりと光る企画もあったりして(例;「ベストハウス123・驚異の脳スペシャル」(フジ)や「世界遺産」「夢の扉」(TBS))、その努力には深く敬意を表せざるを得まい。そういう番組はザッピング(チャンネルを頻繁に変えること)をしない。

★ザッピングしたくなるのは、中途半端なタレントたちが雛壇でワイワイガヤガヤ、まるで公開雑談のように楽屋落ち話を悪ふざけしながら喋っているようなヴァラエティ番組である。本書巻末のインタビューのページで大橋巨泉が「僕はストリップと呼んでいるんだけど、自分たちの裸を見せてやっているわけですよ。僕に言わせれば、それはタレントとしては自殺行為なんだ。だって、脱いじゃったら、後は何を見せるんだよ」(207ページ)と毒づいているとおりの食傷番組である。

★美女の芸術的な“ストリップ”ならば私も見たいが、中途半端なタレントの“ストリップ”なんて、TV受像機の前で見る気になれないし、せいぜいこうしてブログを書いたりツイッターをしている時のBGM代わりになるだけだ。

★さらに最近は、科学者や戦地フォトジャーナリストなどをタレントの言わば「代替品」として、ヴァラエティ番組に引っ張り出したりしている。しかし、彼らはTV界というのはどんな世界なのか、また如何いうふうに振舞えばよいのか、よく見極めつつ出演しているのかもしれない。

★だから、普通のタレントのようにホイホイと頻繁にTVに出たりはしない。最近タレントとして人気者になった、戦地フォトジャーナリストの某氏は、毎日のように「笑っていいとも!」などのヴァラエティに出たりすることがあるが、一度戦地で仕事の依頼があればそっちを優先している(本業だから当然である)。著作が多いあの脳科学者は、TVドキュメンタリなどのホストキャスターをも引き受けているうちに、TV業界での振る舞いのノウハウを発見したらしく、「いい勉強になった」と言うような事を最近の自著で述べているようである。

★しかし、そんな人たちをタレントとして起用しても、一度始まってしまったTV界の劣化はとまらない。いまやニコ動やYouTube、Ustreamとともに、映像媒体の「One of them」化し、かつての娯楽王者の座からは滑り落ちかけている。

★それでも、幸いな事に、TVを見る人はいなくならない。地上波が7月に東北を除いてデジタル化する今年、TV業界は今度こそ、自分たちが嘗て持っていた、豊かなクリエイティヴィティを取り戻し、本当に質の良い、歌手でも俳優でもお笑いさんでも、各分野の天才たちが、もてる才能と実力、持ち味を十二分に発揮できるような番組作りの環境を整えてもらいたい。手間隙賭けた番組の制作を本気で心がけて欲しい。

★少なくとも、雛壇で芸人たちに無駄な楽屋落ち話をさせ、そのうち「使い捨て」にするような質の悪い番組は、これからは作るのをやめてもらいたい。
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