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星人ロロン・第2部(8) [ドラマ・ミニアチュール]

☆「う~ん、それもそうだな…」虚空を漂う目つきをして、無表情に近い表情の男をみて、田茂木も呟くように言った。確かに、この男をおいて、惑星ソラリスへこれ以上の物見遊山なんて、出来るわけがない。

☆「それよりも、早くこの人を乗せて、エネルギーを満タンにして、出発しようよ」、ロロンがしきりに促す。

☆田茂木にして見れば、ソラリスは謎と好奇心の宝庫に違いなかった。彼は、ソラリスというこの不思議な水の惑星を、もっとたくさん探検したかった。・・・しかし、魂の抜けたようなこの身元不明の男が、自分たちの眼前に現われた為、その希望は打ち砕かれた形になってしまった。

☆「仕方あるまい。ソラリスの探検は、また今度にしよう」田茂木はそう独りごちながら、ロロンや身元不明の男と共に、ガルー号に乗りこんだ。ガルーのガスタロンエンジンには、いまシッカリと光子エネルギーが満タンになっていた。


☆名残惜しい思いを残し、田茂木は、ガルーの操縦桿を握り、思いっきり前に倒した。
 「3、2、1、0、ゴー!」
 
 ゴゴゴゴ…!

☆凄まじい轟音とオレンジ色の噴射炎を巻き上げながら、ガルー号はソラリスの大気圏を飛び出していった。


・・…………・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆ロロンと田茂木茸雄は、この身元不明の男を、最新鋭の記憶探査装置にかけ、果たしてこの人物が何処の何者かを探ることにした。ガルーの船体には、実は予め最新鋭の記憶探査装置が取り付けられており、このマシンにかけると、思い出せなくなった記憶を画像表現モニターで再現する事が出来るそうな。

☆「や、やめろー、やめてくれぇ、何をするんだー!」、いやがり暴れる男を検査台に乗せ、沢山ある電極をつけた。ロロンが、装置のスイッチオンをした。

☆画像表現モニターに、果たして、画像が映り始めた。ロロンと田茂木は、固唾を飲んでこれを見つめていた。が、ものの5分後、2人の顔に大驚愕のいろがうかんだ。

☆何と、画像モニターに映し出されていたのは、自分達が以前、見覚えのある人物であった!「こ、こいつらは…」
(つづく)
タグ:SF小説

星人ロロン・第2部(7) [ドラマ・ミニアチュール]

☆謎の記憶喪失男のポケットから転がり出た、なぞの黒い石の玉…?田茂木とロロンには、それがいったい、何を意味するシロモノなのか、皆目、見当がつかなかった。それもそのはず、彼等はその石の由来なんてまるで知らないのだから。

☆「ここは、ろこら?おれは、られら??」虚ろな眼をして呟きつづける男を前にして、ロケットの燃料補給も忘れ、二人は呆然と宇宙ポートの一角に、立ち尽くしていた。


☆その頃、銀河系の一角では、超高速を誇る三角定規のような、最新鋭らしきスマートなデザインのロケットが、ただいま航行中であった。その中には誰と誰が乗っているか?

☆ロケットの船窓を覗いて見ると、何と、汚いもじゃもじゃ頭に宇宙服の男と、真っ赤な鬘らしきものをかぶっている男、白髪頭の男の3人が乗っていた。ドド・アスベン、朝永、それに二人の知り合いのアスピナーレという男。何れも科学者たちである。アスピナーレは、アンドロメダ系の惑星エロイカ出身の、ロボット学者である。この人物も、ロロンを開発した人物と一緒にヒューマノイドの研究・開発に携わっていた。

☆朝永は、最近頭頂部がツルツルにハゲて来たので、ハゲかくしと、若く見せるために、何故か鶏冠のように毛のピンピン立った赤い鬘をかぶっている。アスピナーレは、生まれつき白髪で、しかも、眼が薄緑色をしていて、目鼻立ちが非常に整っている人物であった。余りの美男子ぶりが祟って、かえって女が寄りつかないという。

☆彼等3人の目的は何か?それは、田茂木のところにいるロロン号を、田茂木から奪い去り、朝永の言うことだけを聴くように改造することである。要するに、朝永は、ロロンを永遠に自分のものにするために、仲間と一緒に彼女を捕まえに出かけたのである。


☆惑星ソラリスの宇宙ポートの一角では、ガルー号の燃料補給をすませた田茂木とロロンが、記憶喪失の謎の男を乗せて、一路、惑星エリーへと旅立とうとしている所であった。ふと、田茂木がロロンに言った。

 「せっかくソラリスへと来たんだから、ちょっと探検して見ないか」
 「それはおもしろそう!…でも、この人はどうするの?」ロロンは顔に憂いを浮かべ、記憶喪失男を指差して言った。男の両眼は、今だに虚空をさ迷い、焦点の定まりがなかった。

(つづく)
タグ:SF小説

星人ロロン・第2部(6) [ドラマ・ミニアチュール]

☆『(5)からの続き』☆


☆惑星ソラリスの、青一色でネットリした、コラーゲン液性の海から、瀕死の状態で助け出された、眼のうつろなそいつは、自分の名前すら、思い出せない様子であった。


☆田茂木とロロンは、そいつの容体が非情に悪いのを見て、医療施設に連絡することにした。

 田茂木「病院が何処かにないか?」
 ロロン「番号を聞かなきゃ」
 田茂木「そうだな」

☆田茂木はひとまず、携帯宇宙電話を宇宙服のポケットから取り出し、ダイヤル代行サービスのプログラムを立ち上げた。ソラリスの病院の番号を聞き出す為だ。


☆ところが、ソラリスには、病院なるものが、まったくないということが、わかってしまった。二人はたちまち思案に暮れてしまった。
 
 両人「どうしよう…」

☆その時、海から救出されたそいつの、ズボンのポケットから、黒い玉がコロコロ、と転がり出て来た。「あっ!」ロロンは声を上げ、それを拾い上げた。かなりずっしりと重い。何かの石で出来ているらしかった。
 
 ロロン「なんだろう、これは??」
 田茂木「うむ?」 

☆ロロンは、拾った黒い玉を田茂木に見せたが、彼にも、これが何の為の玉なのか、まるで見当もつかなかった。そもそも、助け出された男が、何故この玉を持っていたのか、両人にはこの時点では、全くわからなかった。
(つづく)
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星人ロロン・第2部(5) [ドラマ・ミニアチュール]

☆青く輝く海で満たされた、生きた惑星ソラリスの、宇宙ポートが、ガルー号を操るロロンと田茂木茸雄の眼にいよいよ大きくうつり始めた。

☆「さあ、着くぞ」田茂木は操縦竿を手前に引いて、着陸態勢にロケットを立て直した。真っ青なバーナーのような、炎を噴き出し、宇宙ポートに無事、着陸した。ハッチを開けて、宇宙服のふたりが出て来た。

☆ふたりはややあって、ヘルメットを外し、ソラリスの澄んだ大気を胸一杯、吸った。地球の、磯の薫りのような匂いが、微かにした。

☆彼等は、宇宙ポートの端っこから、1面に広がっている、透き通った輝きを放つ青い水面を見つめた。瞬間、彼等の顔から血の気が失せた。


☆青い水面に浮かびつ沈みつしているのは、何と、死者たちの残骸であった。白骨、内臓の一部、生々しい手足、中には丸ごとの死体も浮かんでいた。ロロンは凄まじい金切り声をあげそうになった。

☆と、その死体が、微かに動きだした。「おお、ひょっとしたら、まだ生きているかもしれない。ロロン、早く引き上げないと!」狼狽しつつもロロンは、そいつの手を掴んで、一気に引き上げた。次に胸を押して、人工呼吸を試みた。果たして、そいつの口から、見ずと一緒に胃の内容物がドバッと出た。


☆そいつはまだ、若い男性のようであった。ガルー号から二人は、地球から持ってきたらくだの毛布を持ち出し、そいつにかけて、温め出した。やがてそいつは、う~ん、と言いながら手足を動かし始めた。

☆「おおっ!意識を取り戻し出したぞ!」二人は助けて良かった、と安堵した。しばらくして、毛布に包まれた男は、きょろきょろとあたりを見まわし、言葉を発した。が、それは、舌がもつれて呂律が回らなかった。

☆「…こ、ここは、ろこら?」

(つづく)


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星人ロロン・第2部(4) [ドラマ・ミニアチュール]

☆ドド・アスベンと朝永が良からぬ内緒話をしていた、丁度その頃……。遥かなる銀河系の片隅で、高性能ヒューマノイドのロロンと、惑星昆虫学者の田茂木茸雄が乗っているロケット・ガルー号は、星間の暗がりをさまよっていた。

 田茂木が言った。「たしか羅針盤の示した方角によると、ソラリスはこの場所のはずなんだが…」

☆ガルーの船窓からロロンは、ソラリスのあるらしき方向を見つめていた。ところが、一向にそれらしき星は見あたらない。

 ロロンも首を傾げてぼやいた。「おっかしいなぁー・・・」

 田茂木「蒸発でもしたのかしらん」
 
 ロロン「まさか!そんなこと、考えられる?」

 田茂木「相当に高度な科学力をもつ種族なら、惑星の一つや二つ、いとも簡単に消しかねない」

☆彼等が見つめている先には、青一色に輝く、有機アミノ酸を多く含有する、水とコラーゲンの惑星、ソラリスがある筈なのだ。田茂木とロロンは、ここでロケットの燃料を補給しようと、ソラリスを中継惑星に選んだのだ。ソラリスには、銀河系を飛び回るロケットマシーンの燃料を補給する、無料の宇宙ポートがあるのだ。

☆それだけではない。ソラリスには、自分達が向かう惑星エリーの、様々な情報を一手に握っている人物が暮らしているという噂を、ロロンと田茂木は耳にいれていた。

☆それなのに、肝心の、そのソラリスが、見つからない。ロロンは段々不安な顔になった。「若しかしたら、大きなブラックホールに吸いこまれたのじゃないかしら…」そう、以前二人が乗っているガルー号は、砂漠ばかりでオアシスが一個あるだけで、全身白毛むくじゃらの老人ひとりだけが棲んでいる星に、ブラックホールに吸いこまれて迷いこんだばかりなのだ。

☆田茂木「そうなのかなぁー。吸いこまれてしまったのかなぁ。それじゃ俺たちはすごく困るんだけどなぁ」
 
 ロロン「本当、如何したらいいのでしょう?」

☆二人がガルー号の中で不安に胸を震わせていた、まさにその時、彼等が視線のベクトルを向けている方向の、空間に、奇跡が起こった…。

☆そこを覆っていた、暗い星間物質がとれ、澄んだ青々としたいろの、まるい巨大なものが、彼等の眼のまえに出現しはじめたのであった。…ソラリスだ!

☆彼等は狂喜せんばかりに、ガルー号の船室で小躍りした。


☆やがて黒い星間物質が去り、青々と輝く水の惑星・ソラリスがその美しき全貌をあらわした。田茂木とロロンは、その偉容に眼を見張り、しばしうっとりと眺めていた。銀河系の水の女神とたたえられるソラリス。150年前から人が住むようになっても、その神秘な環境は少しも損なわれることはなく、シッカリと保たれていた。それもそのはず、150年前からそこに住んでいる人というのは、パラルー人という、古代プカスカ人の子孫なのだから。

☆パラルー人は、純粋なプカスカの人とは違い、地球人などと同じように頭に髪の毛が生えている。…ただ、その色が、人によって、水色や、赤、マゼンタ、ヴァイオレット、ラベンダー…といったように、まるでパーティ用のかつらのように鮮やかな色ばかりなのだ。彼等は、ソラリスの赤道あたりの海の上に、小さな人工島をつくり、そこに緑がいっぱいの都市を作って棲んでいるそうな。

☆やがて、ガルー号は、意を決したように、惑星ソラリスの赤道あたりに浮かぶ、白い人工島の宇宙ポート目指して、エンジンを全開し、青一色の巨大な球体の大気圏へと、向かっていった。

(つづく)

星人ロロン・第2部(3) [ドラマ・ミニアチュール]

@そのころ、ビルだらけで緑の全くなくなった地球の僻地・日本の首都・トキオでは――

@昆虫学者の朝永と、ピンダロス星からはるばる観光にやって来た物理学者のドド・アスベンが、元皇居近くの超高層ホテルの最上階にある全方向スカイラウンジで、ランチをほおばりながら、雑談に興じていた。ドドと朝永は、実は昔からの知り合いであり、二人とも田茂木茸雄とは共通の知人・友人でもある。

@このころ、日本の首都「東京」は、昔のように「トウキョウ」と呼ばれなくなり、「トキオ」と呼ばれるようになっていた。皇族もすでに断絶していた。


@20年前に、日本は最後の皇族が死去した時点で、立憲君主制から自由共和制の国になっていた。総理大臣制を廃止し、大統領制に移行し、国民投票で決めるようになっていたが、肝心の国民が50年前から続く急速な老齢化の所為で、ホトンド死に絶え、選挙権が永久に認められないアンドロイドが国民の大半を占めるようになったため、投票がここ20年、行われずにいた。お蔭で大統領も世代交代できず、今や90近い高齢となった。

@大統領が高齢ゆえに政務を遂行できないので、国は全くまとまらず、ネオ右翼やインチキ教団出身者が暗躍しだし、今やアナーキー状態と成り果てた。彼らに格安の賃金で雇われた、暴力アンドロイド集団が我が物顔で闊歩し、女性や子供など力の弱いものを容赦なくいじめ、殺したりしていた。ネオ右翼やインチキ教団の連中の中には、1部のセレブリティにとりついて、税金と称して彼等から多額の金を搾り取り、収入に宛てている者も多数いた。

@そんな荒れ果てた国で、一握りのセレブリティの為に建てられた超高層ホテルの最上階で、二人の科学者がだべっているわけである。
だべりの内容は、非常に他愛がないばかりか、これが科学者の発する言葉かと聞いたものが耳を疑うような、猥雑きわまりないものばかりであった。

@朝永「いや~、昨夜はまいったよ」 
ドド「どうした?」
 朝永「いやね、俺のロロン号の調子が、どうもここんところ悪くてねぇ・・・」
 ドド「どんな感じかね?」
 朝永「行為の時に、挿入すると、途端にフリーズするようになったんだ・・・」
 ドド「フリーズ? そいつぁいけない、早めに修理に出さなくては」
 朝永「修理に出さなきゃならないのはやまやまだが・・・何せ費用が円高のせいで」

@この時代、為替レートは、1ドル=10円~20円であった。まさに超円高である。100年前の2009年以来、じりじりと円は対ドル、対ユーロ、対元で値を上げ続け、情報関係、旅行関係は潤ったが、その他の産業が完全に衰えた。今や車を持っているのは、一部のセレブリティだけであった。100年前は庶民も車を持っていたが、自動車産業の事業転換に伴い、ガソリンや電気で動く廉価な車は姿を消していった。それにつれ、庶民も車に乗らなくなった。朝永も、実は完全水素駆動ハイドロエンジンをもつ、超高性能のスポーツカーを持っているのだ。ただし、この車はインド資本の会社の製品である。日本のトヨタやホンダなどは、90年前、みんなこの「タタタ」に吸収合併されたのだった。

@ロボットやアンドロイドの修理代も高くつく時代だ。金のない持ち主たちは、闇の修理屋に直してもらうのだが、朝永はそうはいかない。世の中に顔が知れている人間の自分が闇の修理屋にロロン号を持っていくのは、学者としてのプライド、というよりは、単に気が引けるだけなのだ。ため息まじりに朝永は続けた。

@朝永「闇の修理屋へ持っていこうとも、それとも、今はアンドロメダ系の惑星グロテロに住む、ロロンの生みの親のプーロン忍也(おしなり)博士あてに直接郵送しようかと悩んだのだ」
 ドド「ならば、さっさとプーロンのところへ、直接送ればいいじゃないか!」
 朝永「それが出来たら、今頃君の前でこんな話はしてないよ!」

@プーロンは朝永のもう一人の知り合いで、銀河系屈指の優秀至極なロボット工学者である。人間工学の博士号も持っている博士は、10年の歳月をかけ、生身そのものに限りなく近い超高性能アンドロイド・ロロンを開発したのであった。

@朝永「今は郵送代もあがってしまって・・・。あの大きなのをグロテロに郵送したら、いくらかかると思うんだ? 送料込みで400万グレジッドもかかってしまうんだよ!今の俺には、とてもそんな持ち合わせはない、借金漬けだし」
 ドド「何故だい?結構優雅な暮らしをしているじゃないか。大邸宅に住んで、地球の庶民には手の届かない最高級のスポーツカーを乗りまわしているそうじゃないか」
 朝永「君には優雅に見えるかもしれないが、邸宅もクルマも、あれはみんな、レンタルなのだ。俺の儲けは、全てこの国を今完全支配している、ネオ右翼やインチキ教団出身者の金貸したちに銀行引き落としで、ホトンドとられるんだよ。手許に残るのは、チョボチョボだよ」 


@朝永のようなある程度、功成り名をあげた科学界の大物でも、ここトキオでは、金貸しから多額の金を借りなければ、生きていけないのだった。朝永だけではなく、この国では、ほとんどのセレブリティが、そういう金貸したちに頼らないと、一見豪奢に見える生活も、維持できないのだった。

@因みに田茂木茸雄は、そういう金貸しからの関係をすっぱり切り捨てた為、貧しい暮らしに終始している。家財道具も研究器具も、自家用のロケットも、田茂木は実は自分の書いた本の印税をコツコツ貯めて、購入したのだ。

 ドド「そうか・・・。(ひらめく)そうだ!俺にいい考えがある、耳を貸せ」
 朝永「何だ」
 ドド(口を朝永の耳元へ近づけ)「ゴニョゴニョゴニョ・・・」
 朝永(合点した顔になり)「なるほど・・・それがあったか!」


@いったい何を相談したのか? 次回を待て!


(つづく)
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星人ロロン・第2部(2) [ドラマ・ミニアチュール]

☆ガルーロケットの脳型コンピュータつき羅針盤が、この星に衝突したショックでか、酷くイカレていた。ナビゲーション機構が正常に作動しないらしい。惑星昆虫学者の田茂木茸雄は、ハッチを開けて出て来るなり、深い憂慮の色を顔に浮かべた。

☆「これが直らないと、ここから出立できそうにもない…」 溜息混じりに田茂木がそう呟いた瞬間、ロロンの眼が緑色に光った。「私に任せて」と言うか早いか、ロケットのハッチを開けて中に入った。

☆3分が経過した。田茂木と白い毛皮に包まれた老人は、ロロンが出て来るのを今か今かと、それこそ固唾を飲み込み待ちわびていた。やがて、ピー!という、周波数が非常に高そうな、極めて甲高い音が聞こえた。と思うや、ロロンがガルー号のハッチを開けて出て来た。
 「直ったわ。原因はこれよ」
 ロロンが左の手に持っているものを見て、田茂木は、仰天した。何とそれは、旅立つときに彼が持参した宇宙弁当についていた爪楊枝だった。
 「あちゃー! それは俺が持ってきた弁当の楊枝じゃないか、ひょっとして?」
 「爪楊枝が、羅針盤の基盤の深い所に刺さってしまっていたのよ。きっと、衝突の際に刺さったのね…」
 「うう~…あの時ベルベルに着いた時、箱に入れてきちんと捨てればよかった…」
 「爪楊枝を外して修理波を発射したら、正常に作動したわ」

☆ロロンの機動モードには①「人形モード」②「リモコンロボットモード」③「精密機器修理モード」④「人間的思考活動モード」⑤「初期状態回帰モード」の5つがある。普段田茂木らと一緒にいる時は、④の「人間的思考活動モード」で、これを起動させると生身の人間と変わらない思考や活動が出来るのである。自らの意思によらずに人に操られる時は「リモコンロボットモード」で、これは起動させると、名の通りリモコンで動くロボットの如き機動しか出来ない状態になる。①の「人形モード」、これはいわゆる「ダッチワイフ」のモードである。ロロンを始め女形の超精巧なアンドロイドには、どのような仕様のものでも、これが標準でついている。

☆今回、ロロンが起動させたのは「精密機器修理モード」で、これを使うとどんな精密精巧な機器でも、たちどころに修繕してしまうモードだ。ロロンにはこれら5つのモードが、延髄の部分にしこんであり、④のモードでいるときに、自らの意思にしたがって、それぞれを使い分けすることが出来るのだ。なお、初期状態に戻るには、⑤の「初期状態回帰モード」を起動させる。これで今まで覚えてきたことを全て脳型コンピュータから消去出来、もとの買ったばかりの状態に戻るのだ。

☆ロロン号とよばれるこのアンドロイドを、最初に手動で起動させるには、頭の天辺にある小さな5色の起動ボタンのうち、白いボタンを押す必要がある。これを押してやると、⑤のモードになって起動し始める。赤いボタンを押すと④に定着し、一緒に暮らせる、というわけだ。ロロン号は、未使用の状態だと透明なカプセルに梱包されている。カプセルから出す時は、カプセルの横にあるボタンを押すと、頭の中の覚醒装置がセンサーと連動し、自動的に起動する。この時、モードは⑤のママである。黒いボタンを押すと①の人形モードに、黄色いボタンは押すと②のリモコンロボ・モードに、緑のボタンを押すと③の精密機器修理モードになる。

☆さて、ロロンが修理を終えたロケットのガルー号の羅針盤は、「ただいま、全ての機能が正常になりました。これから船体の体勢を立て直します」とコールした。するとガルーは、忽ち轟音をあげて、さかさまの体勢から、何時でも飛び出せる体勢に直った。

☆その時、全身を白い毛に覆われた、例の老人が近づいて言った。「ところで、おまえさんたち、これから何処へ行くのかね?」
すかさず田茂木が答えた「惑星ソラリスを経由して、エリー星へと向かいます」 老人の顔に忽ち「うわーっ」と驚きの色が顕れた。

☆「エリー星!それは我々と先祖を同じうする仲間が住んでいる星だ。語り継がれる伝説がある・・・話してしんぜよう…」老人は静かに話し始めた。


☆「古来、我々の一族は、かつて緑の美しい星に住んでいた。ところが、アグーラという自分の星を持たない種族が入りこんで、高度な機械文明を持ちこんだために、星の緑は破壊され、我々は仲間を殺され、住めなくなった。そこへある種族が現れて、アグーラの魔手から我々を救い、エリー星や他の惑星に移住させたという・・・我々が今話している言葉も、もともとはその種族が話していた言葉なのだ」。

☆田茂木とロロンには、老人のいう「ある種族」が何者か分かった。プカスカ人に違いなかった。

☆老人は話し続けた…「エリー星に移り住んだ我々の仲間は、平和裏に栄え、今はみんなで村をつくって、幸せに暮らしている。しかし、その他の星に移り住んだ仲間は、環境の変化や、他種族の襲撃などにより、ホトンド滅びてしまった。我々と同じ仲間が今でも栄えているのは、銀河系広しといえども、あのエリー星だけになってしまったようじゃ…」と、ここまで話した老人が、急に地面に突っ伏したかと思うと、ドロドロに融け始めた!

☆「うわーっ!」 田茂木茸雄とロロンは、悲鳴に近い声をあげた。今にも絶えそうな息をハァハァとたてて、老人は最後の力を振り絞ってこういうのだった。

☆「・…つ・…いに、わし・…も・…じゅ・…寿命が・…つ…尽きたようじゃわ…い…」
 「じ、じいさん!」
 「お若い…おふ・・・たり…さ…ん…元…気で・…行っ…て…くる…の…じゃ・…ぞ…さら…ジューッ…」ドロドロに溶解した老人の肉体は、瞬く間にカーキ色の砂の中に吸い込まれていった。

☆二人の胸に大きな悲しみが広がっていった。その悲しみを抱えたまま、二人はロケットに乗りこみ、この砂漠の星を出立していった。目指すソラリスは、この星系からたった1光年先にある。

☆「3、2、1、0、ごお!」けたたましく轟音と砂塵を上げて、ガルー号は目指す星へと旅立つのだった。

(つづく)
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星人ロロン・第2部(1) [ドラマ・ミニアチュール]

☆ベルベル星を旅立った、田茂木とロロンを乗せたロケット・ガルー号は、順調に銀河系内を航行していた。ロロンは、ガルー号の船窓から、真っ暗な宇宙空間を眺め、有る事を思い返していた。

☆それは、ピンダロス星のことだった。田茂木という今自分が愛している男のもとへ、自分を郵送したあのドド・アスベン博士は、今ごろどうしていることだろうか。そのようなことが、ロロンの頭を過(よ)ぎった。

☆その時だった。ガルー号が突然、何かに吸いこまれるような力に捉えられた。「あっ!」と操縦桿を握る田茂木が、鋭く叫んだ。ロケットはドンドン、前に吸いこまれていく。脳型コンピュータ搭載の電子羅針盤が叫んだ、「緊急事態発生!…ただいま、アロン星近くのブラックホールに我が機は吸いこまれつつあり、ベルトとヘルメットを直ちに着用してください」。

☆船内の二人は、急いでベルトとヘルメットを着け、万が一の危険な事態に備えた。強力なGが船体全体を襲った。グワー!と言う感じでガルー号は暗黒空間の底に吸いこまれていった。二人は、船内で意識が混濁し、やがて失神した。


☆気がついたら、ガルー号は船首を地面に突っ込んだまま、不時着していた。先に気がつき、眼を覚ましたロロンは、コックピットに突っ伏したままの田茂木の肩をもって激しくゆすり起こした。「起きて、茸雄さん、起きて!」 田茂木が眼を開け、上体をやっと起こした、
「う…む…」。

☆全てがサカさになっているので、二人は船体から降りるのに難儀した。「如何やら不時着したらしい」と田茂木が言うと、ロロンは言った。「死ぬかと思った」


☆やっとの思いで、ガルー号の扉を開け、備え付けの梯子(はしご)で地上におりると、そこは薄紫色が空1面に広がる、不思議な印象の星だった。「ここはどこだ…?」訝しがる二人。やがて、田茂木の眼に何かを思い出したよう光が一瞬灯ると、あとにありありと、懐かしさの色が浮かんできた。それをロロンは見た。
「如何やらここは、彼の人生にとって、深い関係のあるところに違いない!」

☆田茂木には、ここは幼少の頃に父母と過ごしたなつかしの故郷のように思えていた。…この紫の空の色は、私が小さい頃に住んでいたプカスカの都・ルルシカにそっくりではないか。ということは…我々は、プカスカに不時着したのか?しかし、それにしても、あたりを見回しても、人っ子一人いない。ここは本当は、如何いうところなのだ?

☆田茂木とロロンが周りを見まわしている所へ、何者かが、杖を突きつき鈍重な足取りでやって来た。二人が気付いてそれをみると、背がイセエビのように曲がったひとりの老人であった。その老爺は、ゴツイ木製の杖を持ち、玉のような大きな目を持ち、全身が真っ白な毛足の長い毛に覆われていた。老爺は、プカスカの言葉で、彼等に話し掛けた。

☆老人「ここは惑星プカスカの衛星のひとつ、パンダラーという星だよ、お二人さん。この星には、私の他には、だれもいないんだよ」
 
 田茂木「えっ!ここには御老人しかおられないのですか!」
 
 老人「ああ。200年前の大戦争で、我々の一族は滅ぼされてしまった、私ひとりを除いてね」
 
 ロロン「おじいさんは、その頃から生きているの?」
 
 老人「そうだよ。あの時私は、小さな子供だった。父母と一緒に安全地帯まで逃げた。安全地帯には敵は来れなかったから、私は家族3人、ずっとあそこで生きることが出来た」
 
 老人は、カーキ色の地平線の向こうにある、緑色を帯びた丘と思しき場所を指差した。二人は「ほぉ~」と首を伸ばしてそれを見た。

☆老人「この星はあそこ以外、砂地だらけの砂漠じゃ。私達家族は、あの緑の丘で、ずっと200年もの間、生き続けてきた。緑の丘に移って100年ほど経った頃、父が、全身がドロドロに融けて、骨だけになって死んだ。それから間もなくして、母はお腹が大きくパンパンに膨れ上がって、産まれる、産まれる、と言って死んでいった。母のお腹からは、沢山の鱗だらけの生き物が出て来た。うろこの生き物は、地球人のような姿をしていて、凄く小さく、細長い赤い尻尾がついていた。母のお腹を突き破ったそれらの生き物は、緑の丘から砂漠へ向かってみな走り去っていった…」
 
 二人「……」

☆ガルー号は、如何やらエラングラ系の第4惑星・アロン星近くに存在するブラックホールに急襲された後、時空の歪みに捉えられ、いきなりプカスカの衛星・ここバンダラーに不時着したらしいのだ。この星に人間、というより知的生命体といえば、このプカスカ語の話せるよぼよぼの白い毛皮に覆われた老人だけだという。あとは2本足で歩く、人間のような姿をした小さな赤い尻尾の生き物だけだ、というのだ。

☆「えらいところへ来たもんだ」
 「私達は、帰れるのかしら」
 「ちょっと待って、今、ロケットを調べに行って来る」 田茂木はロロンとじいさんをそこに置いて、ガルー号へと向かった。

☆ガルー号の中は、見た所、異常がなかった。ただ、羅針盤の役目を果たしてくれていた脳型コンピュータは、完全にイカレているらしかた。「こりゃまずい…」田茂木の顔に困惑の色が浮かんだ。

(つづく)
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星人ロロン(12)-第1部最終章 [ドラマ・ミニアチュール]

★地下の大理石で出来た、大きな丸い扉を前にした一行は、しばらくはその前で、立ち止まっていた。やがて、ラングラーが腕まくりをして、扉を動かして開けようとした。「う、うむむむ…!」

★だが、扉はびくっ!ともしない。ラングラーは真っ赤な顔をして扉を左から右へずらそうとしたが、まったく動かない。その時、ゴゴゴゴ・・・という地鳴りにも似た恐ろしい響きが、一行の耳を直撃した。
 「おわーっ!な、何なんだ!」
 「いったい、何が起ころうとしているんだ!」
 口々に叫んでへっぴり腰になりながら、一行は轟音が収まるのを待った。

★ようやく轟音が収まると、今度は周囲が、急に静まりかえった。森の音が、外から微かに聞こえてくるだけになった。突如、ラングラーが 「おおっ!」と驚きの声を発した。
 「扉が、開きかけているぞ!」
 「えっ!」
 驚いて一行が扉を見ると、左から右へと、数㎝ずれているではないか。

★験しにラングラーが扉をさらにずらすと、簡単にズズズっとずれた。「あわっ!さっきまでうんともすんとも、いわなかったのに!」扉は完全に開いた。一行は中へ入った。すると…。

★なんと、そこは本当に何にもない、真っ白な空間だった。「すべてが白い大理石で出来ている!彫像も、何も置いてないね」さらに眼を凝らすと、奥の方に、何かへ続く通路があるのを見つけた。

★一行は、その通路を進んでいった。通路の先には、広い部屋があった。そこへ入りこんだ一行は、大いに驚嘆の声をあげた。
 「おお~っ!」

★床いっぱいに、広がる無数の星座。見たことのない星座が沢山あった。「これが古代プカスカ人の作った『星座鏡』です…」乃理子がこれを説明した。『星座鏡』のあまりの美しさに、ロロンはとても夢見心地になった。
 「素晴らしいわ…」
 「素晴らしいでしょう。私がはじめてエリー星を訪れた時、真ん中の古代神殿にあったこの美しい『星座鏡』をみて、プカスカへ留学しようと固く決意したのよ」

★「真ん中に大きな樹のような星座があるでしょう?これは『世界樹』と呼ばれる星座よ」
 「世界樹…何て素晴らしいのでしょう…宇宙というものの神秘さを感じるわ」ロロンは、夢中になって世界樹を見つめていた。田茂木茸雄は、かつて子供の頃、プカスカ星の首都・ルルシカ*で見た『星座鏡』の美しさを思い出していた。
 「あの時、父に手を引かれて、ルルシカのパラダイ教の寺院に連れていかれた。そこでこの『星座鏡』をはじめて見た。あまりの綺麗さ、輝かしさに、宇宙という世界の壮大さ、美しさに、子供ながら感動したものだった…」パラダイ教団は、プカスカで古くから信仰されている、愛と神秘の神・アメルを「本尊」としている教団である。

★田茂木とロロンが『星座鏡』に夢中になっている間に、ペラック氏とラングラー、森沢乃理子は、その『星座鏡』の壁面の調査をはじめていた。何でも、この壁面に古代プカスカ語と、ベルベル語のふたつの言語で、碑文が書かれているというのだ。ややあって乃理子が東側の壁面を見て「あ!」と声を上げた。
 「あったか!」
 「ありました!」
 「何て書いてあるんだ?」
 「…『我等かつて緑の星に住めり。やがてその星が毒素の充満せることにて滅びし時、天使に連れられて、この地に来たり。天使は、大地の神ルビィに、我等を引き合せたり。ルビィのもとにて、我等は将来の生活を約束せり』」 この知らせを聞いて、田茂木とロロンも、碑文の前にやって来た。

★碑文は、白い壁面にベンガラのような赤い顔料で、古代プカスカ語と、ベルベル語の2種類で書かれ、絵も描かれていた。それはここベルベルで、もともと崇拝されていた大地母神・ルビィであった。ルビィは、三重の同心円に何本の線が放射状に突き出した頭をもち、寸胴のからだにまるい胸のふくらみが2つ描いてあった。足は非常に短く描かれていた。田茂木とロロンに、乃理子が次のように言った。
 「『天使』というのは、実は古代プカスカ人のことなのにちがいないわ。ベルベル人の祖先は、前に住んでいた星の環境が破壊された為、住めなくなって、それでプカスカ星人に連れられて、この星へ来たのよ。銀河の中心に近い惑星には、これと似たような内容の碑文が書かれた遺跡が沢山残っているのよ」

★「この太陽のような頭をしたルビィが、プカスカの崇拝するアメルと融合して、あの神像のような美しい姿になったわけだ…。それにしても、頭が太陽の形をしているというのは、宇宙人を思わせるねぇ」と田茂木がひとりごちた。「それに良く見ると、頭の形がある卑猥な記号に見えてくるねぇ」今度は田茂木の後にいたペラック氏がにやけて言った。その時だった。

★突然、天井で、ゴゴゴ…!とまたさっきのような轟音が聞こえ、丁度ペラック氏のいるすぐ上の部分に、ピキピキと亀裂が走ったかと思うや…。「あぶない!」ペラック氏を除くみんなが、一斉によけた。


★どーん!と天井の1部が抜け、ペラック氏めがけて落ちてきた。あっ!と言うか言わないかの間に、ペラック氏は抜けた天井の下敷きになって絶命していた。頭部は完全に砕け、眼球は飛び出し、頭蓋骨全体がメチャメチャにつぶされていた。胴体も手も足も、ぺしゃんこになって、内臓が飛び出して、それは見るもおぞましい姿であった。

★女達二人は眼を背け、すっかり蒼ざめていた。ラングラーは早速腰につけているマイクロ携帯電話を取り出し、何処かへ電話をかけはじめた。この神殿には地下へもちゃんと通信用の電波が通ずるようだ。すぐに繋がったらしく、ラングラーは如何やら調査団の本部へ緊急連絡をしているらしかった。

★やがて、調査団本部のメンバーが神殿に到着し、圧死したペラック氏を担架に乗せて、神殿の外へ運び出した。ラングラーや乃理子、田茂木とロロンもうつむいたまま、神殿を出た。ペラック氏の遺骸は、すぐに司法解剖のため、ここから5㎞先のカルテールという村に置かれている、調査団本部の建物に運ばれていった。因みに『星座鏡』へ続く道の入口あたりには、ペラック氏から袖の下をもらった神官が、何ということか、口から血の混じった泡を吹いて、白眼をむいて死んでいた。

★田茂木がロロンに言った。「…やはり、天罰というのは、あるもんだなぁ」「そうね…。私、あのペラックという人は、なんだかおかしな下心のある人のような気がしたのよ、神官も何処かで、彼と金銭で繋がっている気がしてた。…きっとルビィの戒めが、二人に下ったのよ」

★そこへラングラーがロロンに言った。「あんたの思っている通りだ。あのペラックという考古学者は、実はトンでもないエロジジイで、前から乃理子さんにご執心だったのさ。あいつは何時か、彼女を自分だけのモノにしようと思っていたのだ。僕は死んでよかったと思っている。それにあの神官、あいつは神に仕える身でありながら、ペラックに飼いならされて、金の亡者になり果てていた。僕はこの二人が調査団の本部を行き来しているのを見ているから、彼等の素性はよぉーく知ってるんだ!卑しい、腐れ果てた奴らに、女神の罰がついに下ったのさ!ざまぁ見ろってんだ」吐き捨てるような口調であった。

★2週間はあっと言う間に過ぎ、田茂木とロロンは、そろそろ旅立たなくては、ならなくなった。それまで、田茂木茸雄は、ルビィの森の、奥深くに昆虫採集の道具をもってロロンと向かい、濃い緑色の金属光沢を持つ羽根を3対・6枚持つ蝶や、開帳がたった1㎜の蝶など、地球では考えられない姿や大きさの、様々な珍しい蝶や蛾の成虫や幼虫を多数採集し、その性質や食草などを調べていった。また、神殿以外の古代プカスカ遺跡をいろいろと見物し、古代宇宙人の残した文明の不思議さに触れる事が出来た。

★調査団と別れの時がいよいよ来た。
 「お別れね・・・短い間だったけれど、楽しかったわ。あなたに遭えて本当に嬉しかった。」眸に寂しげな色を浮かべて乃理子が言うと、ロロンも寂しげな顔で言うのだった。
 「私も、あなたと遭えて、嬉しかった。折角お友達になれたのに、ここでお別れだなんて、とても寂しいわ」
 「いつか何処かでまた遭いたい…それまで、ごきげんよう」二人は固い握手をした。その時、二人は、しっかりとお互いの目を見詰め合った。透き通った濃い褐色をした乃理子の眸に、ロロンは、女神ルビィの姿を見たような気がした。それは、とても神々しい光を放ち、ロロンの心を捉えて、離さなかった。

★ロロンと田茂木が乗ったロケット・ガルー号は、轟音を上げて、宇宙ポートから飛び立っていった。彼等が芥子粒ほどの小ささになるまで、乃理子は、強く手を振っていた。乃理子は、眼にいっぱい涙を浮かべていた。

★ガルーの船室から宇宙空間を眺め、エメラルド色に光るベルベル星が、大きく見えていたのが、徐々にビーダマくらいの大きさになり、やがて、芥子粒ほどの小さな点になるのを見届けたロロンの眼には、惑星エリーへの大きな期待と、森沢乃理子との別れの寂しさがない混ぜになって、浮かんでいた。

★彼等を乗せたガルー号は、一路、有機アミノ酸の水からなる惑星ソラリスに、超音速で向かっていった。

*実は、田茂木が中学生の頃まで、惑星プカスカの首都はフォウナという美しい都市であった。ところが、外部から入り込んできた移民連合とプカスカ土着ミンとの間に3年間に亙る政治紛争が起き、結果、フォウナは首都機能を失い廃墟同然と化した。その後、フォウナの隣町である商都・ルルシカが新しい惑星プカスカの首都となった。

(おわり・第一部終了)

※この物語はフィクションです。
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星人ロロン(11) [ドラマ・ミニアチュール]

◎ルビィの森に着いたロロンと田茂木、調査団の一行は、やや赤みを帯びた葉をもつ、鬱蒼たる木々からなる森林の神秘さに、しばし調査の目的を忘れ、見入っていた。日の光が葉を通し、赤く染まって地面に届いている。

◎「不思議な美しさだ…まるで君の眸のようだ、森沢君」と調査団の団長のペラック氏は、乃理子を見ながら言った。調査団員のラングラーの目がその時、微量ながら、怒気を含んで光った。ロロンは、それを見逃さなかった。
「さてはこの若い男、乃理子さんに相当、気があるな…」

◎やがて調査団の一行は、ルビィの神殿のある方向へ歩みを進めた。グアーン、グアーン、という得たいの知れない金属性の声が聞こえる。「何だこれは!」 普段から、全てが超近代的なビルに囲まれて、毎日を過ごしている田茂木とロロンは、一瞬、仰天した。このグアーン、グアーンと鳴いているものは、ツラツーと呼ばれるこの星固有の鳥だと、へっぴり腰の二人に、乃理子が教えた。「ツラツーは、銀河系のあちこちの惑星に分布している『トウーン』という鳥の祖先といわれているそうです。より高い空を飛ぶように進化したトウーンに追われ、この星にしか棲めなくなったそうです」

◎鬱蒼たる森のど真ん中に、大理石で出来たと見える白いドームが見えて来た。ラングラーが指差した。「あれがルビィの神殿です」
「おぉ、あれが、そうなのか!」田茂木が感嘆の声をあげた。

◎バタバタバタ! いきなり、真っ黒いものが、調査団の目の前に舞い降りた。そして一声、「グアーン!」と気味の悪い血のような色調の真っ赤な嘴を開け、金属的な響きの鳴き声を発した。ツラツーの口の中は暗い洞穴のよう真っ黒けだった。

◎あまりの気味悪さに、一行は後ずさりした。田茂木が「お…これが、ツラツーなのか?」と聞くと、ラングラーは、「そうです。ツラツーは肉食性の鳥です」と言うか早いか、ピストルを腰から取り出し、バン!と一発撃った。ツラツーは、くなくなとその場に崩れ落ちた。

◎「大丈夫です。麻酔弾を撃ちこんでおきました。しばらくしたら、起きてくるでしょう」 生物学者であるラングラーは、倒れたツラツーの身体を丹念に調べていた。真っ黒けの身体の、お腹のあたりが、膨らんでいた。「ツラツーは、お腹の中で卵を雛に孵します」
 「卵胎性の鳥ってわけか…そいつは珍しいなぁ」
 「孵った雛は、親のお腹を破って、外に出てきます。結果、親は絶命します…」
 「えっ!」ロロンと田茂木の二人は、仰天した。自分達が知っているような鳥は、卵を産んで、親鳥があたためて、雛を孵し、その雛を大切に育てているのが普通だからだ。ラングラーは続けた。
 「孵化して2日ぐらいすると、雛は親の亡骸を食べ始めます」
 「うわ~、凄まじいなぁ」
 「まるで、地球に昔棲んでいたある種の蜘蛛みたいだ。その蜘蛛も、子供を産んだ後絶命して、その亡骸を子供たちに食べさせていたんだそうだ」
 「トウーンでは、そのようなことはありません。銀河系じゅうの鳥は、このツラツーを除いて、みな子供を卵で産み、雛になると懸命に子育てをします」

◎摩訶不思議な鳥の凄まじい生態に、二人は仰天しながら、神殿の入口に向かっていった。


◎ルビィの神殿は、まず丸く囲った壁があり、中は赤い石のブロックを敷き詰めてある。その真ん中に本尊のルビィを祭る祠がある。祠の下の扉を開けると、天文の部屋と呼ばれる空間に通ずる道がある。夜になると、沢山の星々が星座となって、床に映し出されるのだ。これが『星座鏡』で、プカスカの人間は、これを使って吉兆や運命を占ったりしたのだ、と乃理子がロロンや田茂木に教えた。

◎「ルビィは、プカスカで『アメル』と呼ばれる愛と美の女神と同じものです」ペラック氏が田茂木とロロンに教えてくれた。
 「ふぅ~む」
 「約5000年前に、プカスカ人がやってきて、この女神をベルベルに伝えました。時が経つに連れ、このアメルは当時、ベルベル人があがめていた大地母神と融合したのです。その大地母神が『ルビィ』という名前なのです」
 「なるほどねぇ」
 「今から、神殿の真ん中にある祠に案内しましょう」

◎・…と、いうかはやいか、ペラック氏は、傍にいた神官に耳打ちして、祠の扉を開けてくれるように頼んだ。神官は、オーケー、というような、ニヤけた表情をした。神官の手には、銀河系銀行券カードが何時の間にか握られていた。ロロンは、それも見逃さなかった。そして眼の中に組みこまれたナノカムコーダという分子の大きさをしたヴィデオカメラを通して、超精巧な脳型コンピュータの記憶蓄積及び編集装置に、その様子をインプットした。
 「神に使える身でありながら、袖の下で簡単に買収される神官…何という情けなさであろうか。ルビィの戒めがあるとしたら、それはこの神官と、神官に金を渡したペラックだろう」

◎ペラック氏から金を渡された神官は、ニコニコしながら祠の扉を開けた。調査団のメンバーと、ロロンと田茂木は、眼を凝らした。いったいどんな御神体があらわれるのかしらん?

◎ギイイイイイ…と軋む音がして、木で出来た祠の扉が開かれ、御神体があらわれた。それを見た一同は、いっせいに驚きの声をあげた。「お、おぉぉぉ…!」


◎それは、えもいわれぬ美しい女性の姿をしていた。髪は長く腰の高さまであり、身体の線がハッキリ分かる、薄ごろもを纏っていた。豊満な乳房は今にもはちきれそうで、ウェストのくびれと見事な対比を為していた。両手には、屋や青みを帯びた透明な、ランゲの水晶と呼ばれる水晶で出来た球を持っていた。顔は正面に一つ、左右に一つずつ、頭の上にもう一つついていて、それらはすべてまるで童女のように幼さの残る顔であった。背中には大きな翼が2対もついていた。

◎「こ、これが、ベルベルの女神…ルビィなのか」 御神体のあまりの美しさに、一同は心を奪われた。神官は頭を深々と下げ、御神体に一礼していた。「何とも不思議な美しさだ、森沢君にあまりにも似ている!」とペラック氏は感嘆しつつ言った。

◎言われて見れば、女神の真ん中の顔は、乃理子に似ていないこともない。というか、非常に似ているのだった。乃理子も、「私に本当によく似ているわ…でも、私はこんなにグラマーじゃないわ」と言った。10章で乃理子の顔が妖精のような、と書いたが、乃理子は幼さと大人びた雰囲気の混じった容貌をしていた。それが見る人に神秘的な印象を与えるのだ。

◎「おお、森沢君と見比べながら、女神を見ていると、森沢君がルビィそのものに見えてくるなぁ」とペラック氏はにやけながら言うのであった。

◎祠の女神像をひとしきり見つめたあと、一同は、祠に一礼して、そこをあとにした。そして、祠のすぐ下の扉を開けて、さっきの神官の案内で、神殿の地下に向かって行った。

◎まもなく、大きな白い大理石で出来た丸い扉が、一同の目の前に現れた。「これが『星座鏡』の部屋に違いない…」田茂木はひとりごちた。

(第1部最終章につづく)
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