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銀河系・明日の神話(6) [ドラマ・ミニアチュール]

●エリーに迫る危機(3)●


◇銀色をしたガルーロケットが惑星エリーに到着し、田茂木茸雄、ロロン、ジークフリートの3人がエリーの沙羅曇(さらどん)平野に降り立ったわけ。それは少し前に惑星シエスタの都・コイモイスで出会った、田茂木の盟友で天文学者のキメラから、エリーを襲っている「ある危機」を知り、ジークフリートが持っていた二つの珠のうち、朝永らに奪われた珠の捜索を後回しにして、エリーの今現在の様子を見にこようと思い立ったからだ。

◇ロケットから降りて、3人があたりを見回すが、さし当たって顕著な異変は、この平野あたりでは起こっていないようだ。
 
 田茂木「何処から見ても…うーん…画に描いたような緑の草原じゃないか」
 
 ロロン「本当…とんでもない危機なんて、起こっているのかしら?」

◇そのとき、ジークフリートが、西側の地平線を指して叫んだ!

 ジークフリート「あ、あれを見て!!」


◇「え?何だ、なんだ?」 2人が西側へと寄って見ると、ぶわ~ん、と蜂の羽音のような唸り音とともに、黒い塊がこっちへ向かってやって来る気配が…。羽音は徐々にでかくなり、黒い塊はアメーバのように自在に形を変えて、確実にこっちへ迫ってくるではないか。

 「うわーっ!」 「なんじゃこりゃあー!」「に、逃げろおぉぉー!!」

◇脱兎の如く逃げ出す3人。黒い塊の正体は、地球に棲むスズメバチのような大きめの、危険な蜂であった。

 田茂木「ひええ・・・!まさか、エリーにきて、蜂の大群に襲撃されるなんて、思ってもみなかったヨー!!」
 
 
◇「キャーッ!」悲鳴をあげて逃げ回るロロン…。「こっちへ来い!」田茂木が走りながら、ロロンのほうへ手を伸ばし、彼女と手をつなぎ、腕に抱えて一緒に逃げ出した。その際田茂木は、懐からあるカプセルを取り出し、空中へ放り投げた。

 パン!

◇カプセルが空中で、大きな破裂音を立ててはじけると、無色透明に近い白い霧が流れ出した。途端に蜂の大群が飛翔力を失い、ポトポトと地面に落ちてきた。「ひーッ!」空からまた蜂が落ちてきたのに、またも悲鳴をあげるロロン。


◇やがて蜂が全て地面に落ちて絶命し、あたりは静かになった、3人はゼーハーゼーハー、と肩で大きな息をして、よろよろと草原の上に座り込んだ。ふと田茂木は、昆虫研究者の血が騒いだのか、落ちた蜂を調べるべく、一匹の死骸を拾ってみた。

◇刹那、彼の両眼がパッと見開かれ、おおおっ、と驚愕が顔に現われた。「こ、これは…」


◇「ど…如何したの?」まだ肩で息をしているロロンとジークフリートの2人が、蜂の死骸を持ったまま動かなくなっている田茂木の様子を訝り、ヨロヨロと立ち上がってから、彼に近づいてきた。

 ロロン「茸雄さん、如何して驚いているの?」 田茂木は死んだ蜂を彼女に見せた。

 田茂木「見て御覧、これを・・・!」

◇蜂の死骸を見たロロンの精巧な脳型コンピュータが、アーカイブデータの抽出を行い、眼内ナノ級カメラに映し出された蜂の映像との照合を行った。結果実物の蜂と、抽出された蜂のデータはピタリと符合した。データの抽出・照合から実物とデータの符合まで、掛かった時間は僅か0.000001秒。

◇符合の結果、地球に生息しているスズメバチ科の蜂、“キイロスズメバチ”とわかった。

 ロロン「あっ!…如何して、地球の蜂が…?」

 田茂木「…やはりそうか…エリーは…」

 ジークフリート「エリーは…?」

◇田茂木の顔は真剣だった。「エリーは明らかに温暖化し、かつ生態系が異変をきたしている!この蜂はエリーにはもともと生息していない。やはり・・・キメラが言っていたように、人間の移住による開発が、この星に温暖化を齎し、かつ外来生物の大発生を招いているんだ!」

 ロロンとジークフリート「ええっ!」(飛び上がって驚く)


◇その頃…。惑星エリーの東南東に向かっていた最新鋭の宇宙航行機が、やがて森林の中に、円くつくられた、一つの集落らしき場所を見つけ、そこへ着陸しようとしていた。岩沢真佐雄と森沢乃理子が乗っているこの航行機は、低空モードに入ったあと、そこで空中停止した。地上から僅か5mと言う低空で停止している。

◇航行機のハッチが開き、そこから梯子ロープが長々と伸びていった。やがてロープが着地する頃、一組の男女がゆっくりと降りてきた。2人はヘルメットを脱いだ。そのときだった。

◇「のりこー!まさおー!」…2人を呼ぶ声がしたかと思うや、図体のでかい毛むくじゃらの、二足歩行の短足生物がドドドド…!と地面を思い切り蹴立てて走りよってきた。日の光が当たると七色に輝く毛皮で覆われた、彼の顔には、丸いビー球のような眼が2つついていた。
瞬間、2人の顔が満面喜色に輝いた。彼等は叫んだ。「プルプル!プルプルじゃあないか!」

◇2人は、そのプルプルという毛むくじゃらの巨人の胸に、ポーンと、飛びついていった。3人は互いに顔を喜びの涙でくしゃくしゃにしながら抱き合っていた。やがて巨人は、彼等2人の身体をこちょこちょと、くすぐり始めた。2人も巨人をくすぐり返した。

◇ゲストをくすぐるのは、この種族特有の歓迎セレモニーである。「ハハハハ・・・」あまりのくすぐったさに彼等は大笑いした。

(7)に続く・この物語はフィクションです。
タグ:SF物語

銀河系・明日の神話(5) [ドラマ・ミニアチュール]

●エリーに迫る危機(2)●


①新進気鋭の惑星生物学者・岩沢真佐雄と、彼の婚約者となった若き惑星考古学者・森沢乃理子は、二人して最新型の宇宙航行機で、緑濃き豊穣の惑星エリーを訪れ、その予想以上の荒廃した姿に驚愕と悲嘆を感じつつ、東南東にある、未だ緑深き鬱蒼たる森に覆われた、二人の思い出に残った村を目指して、また航行機に乗って旅立っていった頃、エリーの南東では、とんでもない事が起ころうとしていた。↓

②エリー南東にある、熱帯性の木々が茂り、馨しい香りを漂わせる花々が咲き誇る湿地帯・プルーレ。その中心にある田牟礼湖は、この地を初めて訪れた地球人の地質学者によって発見され、その名をとって命名された、エリーの中でもとりわけ、ぴか一の美しさを誇る湖である。

③湖の周囲には、地球では人類登場以前に繁栄していたシダ種子植物の仲間や、古生代に繁栄した「鱗木」「ロボク」など、地球上ではもうとっくに滅びて、化石という形でしか見れなくなった古代の草木とよく似た植物群が生い茂り、その合間には、地球では見られない、珍しい花々や草木が繁茂し、馨しい芳香を発して、訪れる観光客や学者たちを魅了しつづけていた。

④湖の中には、不思議な魚が沢山棲息していた。ナメクジウオ(=脊索動物の一種。脊椎動物の直接の子孫となったとされている)によく似た「ぺカイア」と呼ばれる生き物も多数棲息している。巨大な淡水性のシーラカンスにソックリな肉鰭類(=肺魚やシーラカンスの仲間)の魚が悠々と透明な湖の底を泳いでいる。水面近くには、球体のような姿をした河豚(フグ)に似た体の特徴を持つ魚が、ひもかわうどんのような尾ひれを振って、まるで巨大なオタマジャクシさながらに、愛らしく踊っていた。

⑤湖の中に棲む生物の中で、生物学者や地質学者らの注目を集めている生き物があった。それは地球の古生代、カンブリア紀に栄えた当時最大の生き物で、食物連鎖の頂点に立っていた「アノマロカリス」に酷似した節足生物である。この生物は湖を発見した田牟礼博士によって「メタ・アノマロカリス・エリーイ」なる学名がつけられた。

⑥地球でとっくの大昔に滅亡したカンブリア紀最強の生き物とそっくりな生き物が、地球から何億光年も離れた緑の惑星の、鬱蒼たる森に囲まれた湿地帯の淡水湖に棲息しているとは、湖を発見した田牟礼氏も、さだめし仰天したであろう。現に田牟礼氏は、湖の水質調査の際、偶然にもこのメタ・アノマロカリスを発見して、それこそ腰を抜かさんばかりに驚いたという。

⑦田牟礼氏を仰天させた湖の生物は、他にも、これも地球ではとっくの古生代、ペルム紀に絶滅し、化石でしか観る事のない「三葉虫」によく似た生き物がある。湖底でこれがゴキブリのように忙しなくあちこちをすばしっこく動いているのである。早速氏はメタ・アノマロカリスや三葉虫を採集し、特徴などを記録して、生きたまま特殊容器に入れて、ロケットで地球へ持ち帰ろうとしたが、途中でみんな腐敗して死んでしまったそうである。

⑧その他にも驚愕すべき生き物が沢山居る、そんな田牟礼湖のほとりで、ぱっと、黒い霞がかった、投網のようなアミが投げられた。と思う間もなく、網には沢山の魚が掛かった。湖の水面ちかくで尻尾を振って泳いでいた、可愛いまん丸の淡水河豚たちだった。

⑨投網が投げられたあたりの深い茂みから、明らかにオヤジじみた、男たちのボソボソ声が聞こえてきた。二人居るらしい。

 「沢山取れたな」
 「うむ」
 「これで今夜の夕食はオッケーだな」
 「食糧になるものはこれで全て調達できた!」
 「早速、仕度に取り掛かろうぜ」

⑩…ズルズルズル…獲物が入った投網を引きずる音が聞こえ、だんだん遠ざかっていく。


⑪密林の奥にある、迷彩柄のテント。さっきから四角く切った窓から明かりが漏れている。カチャカチャと食器をかき鳴らしていると思しき、金属同士がぶつかる耳ざわりな音や、ジュルジュルと何かの汁をすする音も聞こえている。

⑫テントを覗くと、中に汚い天然パーマのふけた男と、真っ赤なモヒカンの鬘をかぶった男、そしてまるで人形のような生物感のない、無表情な男の3人が居た。3人ともみな迷彩のつなぎを何故か着ている。縮れ毛はドド・アスベン、モヒカンは朝永、そして無表情はアスピナーレである。

⑬「まだこねぇかな、あいつら…」飯盒にある飯をかっ込みながら、ドドがボソッと言った。
 「あいつ等が此処へ来るというのは、とっくのとうに解っているから、ずっと3箇月から先回りして待ってるんだけどな」
 続けてアスピナーレが言った。
 「何時になったら来るんだ?このままいくと、この惑星にあるもの全て、俺たちが全部食い尽くしちまうよ」
 朝永が、アルマイトのスープ皿に盛られた、あの丸い河豚をクタクタになるまで煮込んだスープを啜りながら喋っ た。

⑭このプルーレの森には、これまた興味深い生き物が沢山いた。えもいわれぬ美しい囀りを聞かせる、エリーを代表する鳴く鳥(鳴禽類)、レインボー・ナイティンゲール(虹色小夜鳴き鳥)。その名の如く全身が金属光沢を持つ、七色の羽毛に覆われた、小さな鶯によく似た背格好の小鳥である。

⑮それからアパパネ。エリーには珍しい外来種で、地球のハワイが原産地だが、ハワイが激しい温暖化の果てに砂漠の島と成り果てつつあった頃、鳥類学者をはじめとするプロジェクトティームが、数億光年の距離も厭わず、この惑星エリーに移植させた、紅の羽色をした美しい鳥である。アパパネも今やすっかりエリーのこの地、プルーレの森に馴染んで、虹色小夜鳴き鳥などと共存共栄している。

⑯その他、地球で絶滅危惧種に指定されているスローロリスに似た、現地の人は“プークチム”と呼んでいる原始的な猿や、これも地球ではとっくに滅んだ、森林最大の肉食獣・スミロドン(サーベルタイガー)ソックリの虎など、様々な生物たちがこの森の中で息づいていた。

⑰さて、夜が今しも明けようとしている時、東の空から太陽が、森から遠く離れた沙羅曇(さらどん)平野(これも東洋人によって発見された平野。発見者の沙羅曇博士の名をとって命名された)の地平線を明るい朱色に染めて昇らんとする頃、まだ星が瞬く藍色の西側の空から、周囲の星たちよりも、ひときわ明るい光を放つ一点が、物凄い速さで徐々に地上に近づいてきた。やがてそれは大きくなり、姿がはっきりしてきた。…やがて全貌が現われた。それは銀色をした、高出力ガスタロンエンジンを搭載した、ガルー号ロケットだった。

⑱ゴゴゴゴ…ゴォーッ。轟音を上げてエンジンを噴射させつつ、ロケットは無事体制を整え、沙羅曇平野に着陸した。間もなくハッチが開き、何処かで新調したらしき、ピタピタの宇宙服を着た男女3人が、この緑の平野に第一歩を記した。
惑星昆虫学者・田茂木茸雄と、その助手ロロン、そしてホトンドが有機アミノ酸の海だけの惑星・ソラリスで彼等に命を救われたジークフリートの3人である。

(6)に続く・この物語はフィクションです。
タグ:SF物語

銀河系・明日の神話(4) [ドラマ・ミニアチュール]

●エリーに迫る危機●


☆緑濃き豊穣の惑星・エリー。銀河系のほぼ中心部に近いところに存在する星団「エルマー・ソラ星系」に属する、生きとしいけるものたちを育む天体。

☆宇宙社会に住む諸人は異口同音にいう、この星は…“銀河の生命の揺籃(ゆりかご)の星”…または“地球の荒廃後、広漠たる天の川銀河に、最後に残された奇跡の命の楽園”と。

☆そのエリーの透き通った紫色の天空に、ある日、地球の空で見る「明けの明星」「宵の明星」のように、極めて明るい光の点が現われた。


☆数日後、その明るい点は初めて空に現われたときよりも、若干大きくなり、それから次第に全容がはっきりと、エリーに住む人々の誰もが目にすることが出来るようになった。

☆それは、一つの最新鋭の宇宙空間航行機であった。


☆その航行機は、星の大半が鬱蒼たる森林に覆われたエリーの中で、例外的にそこだけがカーキ色の砂漠のような乾燥帯になっている、頂上がテーブルのように真っ平らで、砂埃が時折舞い上がる丘陵に、無事に到着した。

☆その鈍い銀色に煌く、航行機のハッチが開いた、と思う間もなく、一人の航行士が丘陵の乾いた地面に向かって降りてきた。非常に華奢な、ほっそりとした体にぴったりフィットした宇宙服を着ていて、おまけに胸に二つの、ささやかな丸い隆起があった。女性である。

☆彼女は重たい航行用のヘルメットを脱いだ。長い黒髪がさーっと言った感じに、砂漠の風に靡いた。航行機からはもう一人、引き締まった筋肉質と思われる体格の、やはり彼女と同じような身体にフィットした宇宙服を着た人物が出てきた。男は女の傍に来ると、彼女が先にそうしたようにヘルメットを脱いだ。日に焼けた東洋人の、凛々しい若い男の顔がそこから現われた。

☆二人は周りを見回して、各々、深い溜め息をついた。そして暫くの間無言でいた。・・・重たい沈黙が続いた後、黒髪の女性が若者のほうを向いて、口を開いた。

 女「真佐雄さん…」

☆女の眼には、深い悲しみの色が浮かんでいた。何処までも深く透き通った、海の底のような褐色の眸は、どんな人間をも惹き付ける、神秘的な魅力があった。そんな女の眸を見ながら、真佐雄と呼ばれた男が口を開いた。

 男「想定していたよりも、砂漠化が進んでいる…」

☆そこから、ふたりの会話が始まった。

 男「…僕等が今立っている所…何処だかわかるだろう?子供の頃、初めてエリーを訪れたとき、ここには植民地があり、豊かな緑があった。今は…今は、それらが跡形もなくなって、見渡す限り砂漠のようになっている」

 女「ええ、あれだけ賑やかで、生き生きとした緑に溢れていたのに、今は…今は、誰も居ない、砂に覆われた世界になってしまったね…」

 男「エリーの温暖化による荒廃が進んでいる事は、大学院の研究所にいる同僚から聞かされていたが、まさかこんなに酷いとは思わなかった…」

 女「…私なんだか、とても、悲しくなってきた…ここも地球と同じ運命を辿っていくなんて、信じられない…」

☆女のその美しい眸から、ほろほろと、珠のように透き通った、熱いものが溢れてきた。女の流すその涙を見た時、真佐雄の脳裏に、これまでの事が走馬灯のようによぎってきた。真佐雄の口から、明らかに人名とわかる、固有名詞が漏れた。

 「乃理子・・・」

☆今彼の眼前で泣いている、流れるような黒髪の、眸の神秘的な女は乃理子という名前で呼ばれた。…そう、前にロロン達一行が惑星ベルベルで出会った地球人・森沢乃理子その人だったのだ。

☆例の「女神ルビィの天罰」事件以来、ベルベルの神殿遺跡調査から離れ、惑星プカスカの大学院へ戻っていた乃理子は、幼い頃からの知り合いで、今は父の跡をついで惑星生物学者になっている岩沢真佐雄とは、子ども時代、惑星エリーで冒険を繰り広げたことがあった。当時小学校5年生だった二人。

☆あの頃は二人とも初恋の胸の甘い疼きを微かながら覚えたばかりであった。乃理子はその頃、小学生にして地球の「惑星TV」の取材記者として活躍し、真佐雄といえば、惑星生物学者であった父の岩沢博士について、惑星エリーの探査に向かう際、初めて彼女と出会った。出会ったばかりの頃、真佐雄は彼女の、褐色の眸に惹かれた。

☆その頃から乃理子の、透き通った海の底のように深く輝く神秘的な眸の色は、今に至るまでいささかも変わらなかった。否、思春期の乙女から大人の女に成長していくにつれ、彼女の眸の色の深さは、いよいよの透明感を伴って深まっていった。

☆真佐雄は乃理子のそんな眸をこよなく愛していた。そして彼女の全てを、この宇宙全体の、如何なる財宝にも換え難い存在として、今や強く意識していた。…こんなに彼女を強く意識するようになった、そもそもの始まりは、中学2年になり、惑星プカスカで再会した頃だろうか。その時乃理子は、子供の頃のあどけなさを残しつつも、既に自分よりもうんと大人びた、謎めいた美少女に成長していた。

☆その時から俺は、この乃理子を“運命の女”(ファム・ファタル)として意識しだしたのかもしれない。尤も当時は、ファム・ファタルなんて洒落た言葉は知らなかったが。…そんな回想が真佐雄の脳裏をよぎっていた。が、そんな回想が浮かんだ事など知覚していないように、彼はこの丘陵地域の荒廃を口にしたのだった。

☆彼等二人が、幼き日に訪れた思い出の地、惑星エリーを20数年ぶりに再訪問したかったのは、今物凄い速度でエリーの大気が温暖化し始め、あれほど豊かだった緑が徐々に失われていっている事に危惧を感じたのと、初めてエリーを訪れたときに出会った種族「トゥープゥートゥー」の子どもと、その親戚である村人たち、そして二人に結婚の印である、それぞれが赤と黒の石で出来た二つの宝珠を呉れた、あのときの村の長老が眠る墓を訪れ、婚約の報告をする為の、二つの理由からだった。

☆二人はそれぞれ、自分達の想像以上にエリーの荒廃が進んでいる事に衝撃を受けていた。両者の顔には深い憂いの色が強く現われていた。今の二人には、自分たちが20数年の星霜を経て、漸く夫婦(めおと)の契りを結べた喜びよりも、目の前に広がる砂漠化した荒野が、あの懐かしい緑濃き、良い人たちがいっぱい居た美しい星だということへの驚きと悲しみの思いのほうが大きかった。…真佐雄は自分と同じように、荒野に眼をやり、悲しみの涙を流している乃理子にこう言った。

 真佐雄「トゥープゥートゥーの村へ行こう。あそこならまだ大丈夫だ。村の人々も元気にしているはずだ。みんなに会えば元気になれるさ。…さぁ、もう泣かないで」
 
 乃理子「ええ…そうね…」

☆真佐雄は乃理子の涙で濡れた睫を、指でそっと優しく拭うと、たくましいかいなを彼女の背中に回して、やや強く締めるように、いとおしそうに抱いた。

☆二人は暫くそのまま強く、互いを慈しむように抱き合いながら激しい接吻をし、肉体を宇宙服の上から愛撫しあいつつ、丘陵に銀色のロケットと一緒に立っていたが、やがて何事もなかったように、またロケットに乗り込み、カーキ色の砂漠と化した丘陵地帯から、凄まじい砂埃を上げて、地平線に垂直に飛び立っていった。

☆ロケットはやがて向きを変えて、地平線と平行して、まだ鬱蒼たる緑の残っている東南東の方面へと向かっていった。あそこにはトゥープゥートゥの棲む村がある。彼等は其処を目指して、風よりも早く飛び立っていった。

(5)に続く・

・この物語はフィクションです。実在の人物・組織とはごく一部を除き、関係ありません。・

銀河系・明日の神話(3) [ドラマ・ミニアチュール]

●赤い縮れ毛の男●


★田茂木と挨拶を交わした赤毛の天然パーマ男は、銀河系外宇宙を専門に研究している天文学者・キメラ博士である。

★キメラは田茂木とは、地球の理化学研究所時代の同僚同士であり、田茂木が銀河系の生命のある星に生息する昆虫の研究に専念するべく研究所を去る際に、選別として惑星エリーに棲むという珍蝶「モルディカヤ」…それは地球に棲むゼフィルス属の蝶によく似て、金属のように輝く緑色をしている蝶である…の標本を送った人物である。

★キメラの趣味は田茂木と同様、子供の頃からやっている「昆虫採集」であった。田茂木とキメラは、つまりは同じ「虫屋」であったのだ。幼い頃から田茂木とキメラは、おのおの地球に残されている、今はごく僅かな緑の世界を、わくわくする好奇心の塊となって駆け回り、前者は蝶を、後者はツノゼミ類を採集し、それぞれの生態や性質、特徴について、自ら自然に学んでいった。

★やがてキメラは天空の星々に魅せられていき、宇宙の研究に没頭するようになり、ツノゼミ類の採集は趣味として続けている。一方田茂木は、蝶の採集と研究にこだわり、宇宙の中の、生命の存在する全ての星に棲む蝶類を研究していくのだと志し、惑星昆虫学者になる道を選んだ。


★研究所時代から仲の良かった旧友の元気そうな姿を見て、田茂木の顔は喜びの心ゆえにほころんでいた。頬が薔薇色に輝いている。その様子を見つめているロロンとジークフリートの、二人の人造人間も、彼等の様子を見つめて、喜色をそれぞれ、顔に浮かべて見つめていた。


★「…で」と、キメラは口にし、そのあとこう続けた「…オレがお前にプレゼントしたあの標本…今も、持っているのか?」

★田茂木「ああ…でも、生憎地球の実家に置いてきてしまった。でもオレとお前の友情の証、記念碑として、ずっと大事に、オレのパソコン机の上に飾っておいてある」

 キメラ「で、その蝶は、今も美しく輝いているかい?」

 田茂木「ああ…今も神秘的なエメラルドの光を、オレの机上で放っている…オレは何か大きな仕事をするたびに、お前から貰ったあのモルディカヤの羽根の光を見つめて、決意を固めてから仕事に取り掛かるのだ…今度、オレはあの蝶のふるさと、惑星エリーへと向かう。エリーに行くと決めたとき、モルディカヤの光を見つめ、よし、蝶よ、お前の仲間たちの棲む、あの緑深き森の惑星へと、オレはこれから向かうのだ!と。でも、いまそこにいる男…アンドロイドだが、大切な宝物をなくしたというので、これからその宝物を探しに出かける。エリーはその後にでも行く」
 
★田茂木は、ロロンのすぐ横に居るジークフリートを指して言うのであった。

★その時、キメラの顔に二つついている、ビーダマの如く透き通った薄緑の眸に、深く哀しげな光が宿った。そして、こういうのだった。

 キメラ「後でエリーへ行く…って?あそこへは今、行かないほうがいいと思う」

 田茂木「何故?何かとんでもない事が起こっているのか、エリーで?」

★キメラは、大きく頷いた。赤毛の無造作な天然パーマの乗った童顔を、哀しく曇らせて、頭を縦に振った。「教えてくれ!いったいあの星で、何が起こっているのかを」田茂木はキメラに迫った。

★彼等の会話の様子をずっと見ていた人造人間のロロンとジークフリートは、エリーに異変が起こっていると聞いて、とても大きな不安にかられた。

 ジークフリート「何が起こっているのだろう?」

 ロロン「解らないわ…解らないけれど、きっととんでもない事が、エリーで起こっているのだわ!」

★やがて、キメラが口を開いた。それは、腰が抜けるほど、驚くべきことであった。

[(4)に続く]

*この物語はフィクションです。実在する組織・人物とはごく一部を除き、関係ありません。
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銀河系・明日の神話(2) [ドラマ・ミニアチュール]

●第1章第2話・惑星シエスタへ●

☆鬱蒼たる熱帯系の密林に覆われた、惑星ギラを出発して、はや数時間。昆虫学者・田茂木茸雄とアンドロイドのロロン、それに惑星ソラリスで、2人に命を救われた男性型アンドロイドのジークフリートの3人を乗せたロケット・ガルー号は、彼方に七色に輝く星雲を望みながら、煌く星たちの間を、順調に航行していた。

☆田茂木が、コックピットから見える七色の星雲を指差して言った。

 「ロロン、あれが地球と同じ空気と緑のある惑星、シエスタのある、M9000アテナ星雲だ」

 「アテナ星雲・・・」呟いたロロンの瞳は、うっとりとした気配を浮かべた。「トテモ綺麗・・・」

 「美しい・・・!こんなに綺麗な星雲を見たのは、生まれてこのかた初めてだ!」ジークフリートが感嘆して言った。

☆今、ガルーの乗組員たちの目の前に広がる、紅や青や緑や黄色、紫色などに彩られた中に、青白く眩く光る恒星を幾つか従えた星雲は、えもいわれぬ美しさをもって、彼等を歓迎しているようであった。


☆ガルー号は、速度を上げつつ、その七色の中心へと向かって、全速前進した。惑星シエスタは、七色星雲の丁度真ん中あたりにあり、たどり着くのに4580億光年かかる、と田茂木は言った。「シエスタへは、10回ワープ(時空間短縮移動)すると行ける」3人はヘルメットをし、シートベルトを締めた。田茂木は、ワープ用のボタンを押した。すぐにガルーはワープの体勢に入り、時空間に入っていった。


☆ワープを10度繰り返すと、目指す惑星シエスタは間近だ。やがて、ガルーの眼前に、地球のように海の青と、雲の白の模様が流れる、生命の息吹溢れるシエスタの外観が見えてきた。コックピットに座り操縦桿を手前に引いて、田茂木が後部座席の2人に告げた。

 「大気圏に突っこむぞ。シートベルトをしっかり締めて!」
 「OK、ラジャー!」

☆3人はカチッと音がするまで、シートベルトの締めをきつくした。ものすごいGが彼等を襲う。ガルーは白熱の光を発しながら、シエスタの大気圏に突っ込んでいった。


☆やがて、ガルーは着陸の体勢になり、青い海の只中に浮かぶ白い砂の島にエンジンを噴射して無事に着陸した。

☆ブヮー、という轟音と共に白く細かい砂が舞い上がる。程なくロケットのドアがカパッと開き、そこからはしごがニューッと伸び、白い砂に着地した。そして中から、スキンヘッドの黒尽くめの男、流れるような黒髪の、いかにも美しい、身体にフィットしたスーツを着た女、そして、金髪で緑色の眼をした、これも身体にぴったりしたスーツを着た肌の白い男が降りてきた。

☆自分たちが居る白洲の島は、実は人工の島で、島からは白い橋が東の方角にまっすぐに伸び、その先に、大都会の象徴である摩天楼が聳え立っているのが見えた。

☆田茂木は言った。「あれが惑星シエスタの宗主国、イシュタールの首都、コイモイスだ」

 ロロンとジークフリート:「コイモイス?」

 田茂木:「コイモイスとは、シエスタの共通語・カトナラ語で“永遠の都”の意味だ」

 2人:「永遠の都?」

 田茂木:「何時までも永遠に栄えたいという願いを込めて、イシュタールの人々は、そう名づけたのだ。実は俺も、昔、大学生だった頃、この都市へは何度も訪れたことがあるんだ。初めて訪れたとき、繁華街におじいさんがいた」

☆今から20数年前、初めてコイモイスを訪れた、バックパック姿の若者だった田茂木を見て、親切心をもつそのおじいさんが、町の名の由来について教えてくれたのだ、という。

☆惑星シエスタは、はるか古代よりカトナラという種族の支配する惑星帝国であり、コイモイスは数億年の歴史を誇る、銀河系屈指の古い都である。

☆初代の皇帝・シンタマニは、もともとこの星に住んでいたアジャパラという種族の住んでいた、シエスタの中央にある大陸・イシュタールを完全制覇し、ここに都を立てた。その際、未来永劫栄えてほしいという願いを込め、コイモイスと名づけたという。

☆「アジャパラの人々は、如何なったの?」ロロンがたずねた。田茂木が言うには、「彼等は、初代の王とその軍勢によって、ことごとく滅ぼされた」。

☆「人間型の知的生命体で、アンドロメダ系のエジリカ星団にある、かつては緑豊かで今はクレーターだらけの惑星シッカにいた1種族を起源とするカトナラ族がシエスタに入り込む以前から、この星に住んでいたアジャパラ族は人間と同じような姿ではなく、原始的な海老のような身体に大きな球体の頭を持つ、エイリアンだった。

☆「知能は我々並みで、しかも自分たちで文明を持っていた種族だったため、侵攻してきたカトナラ族に対し徹底抗戦を続けた。が、前銀河暦3500年ごろ、軍備、知略、人員のすべてに勝るカトナラについに敗れた挙句、根こそぎ捕らえられ、結局は料理され、彼等の胃袋に入ってしまった。当時の記録によると、アジャパラ人はそのまま茹でてタレをつけると、トテモ美味だったらしい」

☆ロロンとジークフリートの2人は、可笑しいとも悲しいともつかぬ、なんともいえない顔になった。戦いに負けた上に相手に食べられて滅んでしまうとは・・・。笑ってよいのか、悲しんでよいのか。

☆・・・と、そのときであった。はるか東にあるコイモイスのほうから、人らしき影が歩いてくるのが見えた。田茂木にはすぐに、それが誰だかわかった。近づくにつれ、彼の姿がハッキリ見えてきた。それは、不自然なほどに鮮やかな赤色の、無造作にもじゃけた頭髪をした、赤いつなぎのスーツを着た人物であった。

☆田茂木は、「やあ」と手を挙げた。するとそのもじゃけ頭の人物も「おお」と言って左手を挙げた。如何やら、男は田茂木の知り合いらしかった。それもかなり古い友人らしい。

☆程なく2人は対面し、はははは、と笑いあいながら肩をたたきあい、抱擁しあった。

☆「やー、久しぶりだな、どうしていた?」「君こそ、はるばるここへくるなんて」「僕はわけあって銀河を旅しているのだ」「そうか・・・で、後ろに居る連れは?」

☆「ああ・・・これは僕の優れたアシスタント、髪の長いのがロロン、金髪はジークフリートという」

☆もじゃけた頭の男は、2人に向かって声をかけた。「やあ!お二人さんはじめまして。僕はここコイモイスで天文学の研究所を開いているキメラといいます。田茂木茸雄君とは、地球の理化学研究所で一緒に仕事をした仲間同士です」

☆キメラはやや小太りで、子どものようなあどけなさの残る顔が、もじゃけた頭髪の下にある。

・(3)に続く・

*この物語はフィクションです。実在の人物・組織とはごく一部を除き、関係ありません。
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銀河系・明日の神話/『星人ロロン』改め(1) [ドラマ・ミニアチュール]

☆今回からは、『星人ロロン』改め『銀河系・明日の神話』というタイトルで、話を書くことにする。デジタル流行りで電子書籍の時代が来始めているという今、必要なのは『物語の復興』なのだ。☆


●第1章第1話・ガルー出発●

☆地球出身の昆虫学者・田茂木茸雄、生身の人間に究極まで近づけて作られた女性型アンドロイドのロロンは、惑星ソラリスに着いた時、ソラリスの大海に浮かんでいた男性型アンドロイド、ジークフリートを救い出した。そこで不思議な玉石の情報を聞いたロロンと田茂木は、それを取り返すべくソラリスを旅立つことにした。

☆しかし、ロロンを初めて自分で「恋人」と意識したジークフリートは、予め「恋人」としてプログラミングされた田茂木の古い知り合い、最上百合子のことを忘れ、ロロンのことばかりを想うようになった。


☆いよいよガルー号が、惑星ギラを出発するとき、ジークフリートは彼女を想うあまり、毛布に包まって自慰行為をした。手でしごいて大きくなった自らの逸物は、硬く大きくなったついでに、白い液体を噴き出し、みるみるしぼんでいった。あっという間に毛布はその白液でべっとりと汚れた。我に帰ったジークフリートは、

 「しまった!やっちまった!」

☆慌てて毛布についたその白液を、そこらにあった雑巾で拭いた。しかし、今度は雑巾が白く汚れた。「ああ、見つかったら怒られてしまう・・・」そこで今度はロケットから出て、何処か水のあるところを探した。・・・ほどなく、ジークフリートの敏い耳がせせらぎの音を捉えた。彼はその音が聞こえるありかに向かい、さらさらと流れる湧き水を見つけ、そこに毛布を浸して、ゴシゴシ洗った。ほどなくして白液は綺麗に流れ落ちた。

 「ああ、よかった・・・」

☆ジークフリートがほっと安堵の顔になったそのときだった。彼の後ろで誰かが立っていた。その誰かは、彼に声をかけた。

 「そこで何をしてるんだ?」ジークフリートはぎょっとした。振り向くと、そこには田茂木その人が立っていた。

☆ジークフリート「よ、汚れたから、洗っているんだ・・・おねしょで・・・」
 
 田茂木「嘘つけ。おまえみたいな大の男がおねしょなんかするかね?」

☆ジークフリートくらいの生身の男性の年恰好では、確かにもう、おねしょする時期ではない。

☆田茂木「教えてくれ、正直に・・・怒ったりはしない。何をしたんだ?」

 ジークフリート(口篭もりつつ)「じ、実は・・・」

 田茂木「実は・・・何?」

 ジークフリート(耳たぶの端っこまで顔面が真っ赤になりつつ)「俺、ロロンを思うようになったんだ、それで、たまらなくなって・・・」

 田茂木「ひょっとして、☆★☆か・・・?」

 ジークフリート(酷い赤面状態)「そうなの・・・その☆★☆なの・・・」

☆それを聞いた田茂木は、ハハハハハ・・・と大笑した。「なんだ、そんなことか・・・、でもロロンはおまえには渡さない。俺の命よりも大切な女だからな」

 ジークフリート「命よりも、大切な女・・・」

 
☆それから、男同士の秘めた会話が展開されたが、ウェブ容量の関係もあり、ここでは割愛。語り合いが終わる頃には、ソラリスの夜は白々と明け初めていた。

 
☆はるか東の水平線に、青白く光る太陽が昇り始めた。ここに住む生き物たちの鳴き声が聞こえ始める。

 ギャ、ギャ、ヒヒヒヒヒヒ・・・。キョキョキョキョ・・・。

☆鳴き声と共に、バサ、バサッと音がしたかと思うと、毛に覆われた翼を持つ鳥のような生き物が飛び立ちだした。よく見ると、これは地球では既に絶滅した翼竜のようである。

☆この惑星ギラを照らす太陽は、我等の太陽系の太陽よりも、数億年若い恒星である。だから、朝焼け、夕焼けという現象は、ココ、森の惑星ギラでは起こらない。

☆それから数時間後、ガルーがギラを出発するときが来た。田茂木茸雄がコックピットで操縦桿を握り、ロロンとジークフリートは隣り合わせに座り、座席のシートベルトをしっかりと締めた。そのとき、ロロンはジークフリートに言った。

 ロロン「私の愛する人は、田茂木茸雄さんなの・・・私はこの肉体が骨から金属疲労を起こし、完全に動かなくなるまで、あの人を愛するわ。ジークフリート、あなたがあたしを愛してくれてるってことを、茸雄さんから聞かされたけれど、愛してくれるのはトテモありがたいわ。あなたを嫌っているわけでもないわ。デモあたしは、生涯あの人を愛すると決めたの・・・だから許してね」

☆目を伏せがちにロロンがそう言うのを、ジークフリートは胸を高鳴らせつつ聞いていた。それでもいい、と彼は思った。仮令片思いでもいい、ロロンが自分のそばに居るだけで、自分は十分幸せを感じるのだから。

☆やがて、ガルー号のジャイロコンパスに埋め込まれた、精巧な脳型コンピュータが出発のカウントダウンをはじめた。「3、2、1、0、ゴー!」

☆ドドドドド・・・!と凄まじい轟音を上げて、ロケット・ガルー号は、翼竜たちがギャアギャア鳴きながら飛び立ち始めた、ギラのいまだ紫色をした大空の頂点を目指し、まっすぐに飛び立っていった。この3人にいったいこれから、如何なる運命がまちうけているのやら、それはおいおい、語ることにする。

【(2)に続く】(2010/05/09)

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星人ロロン・第2部(10)-最終章 [ドラマ・ミニアチュール]

(久しぶりに「ドラマ・ミニアチュール」を再開する)

☆昆虫学者・田茂木茸雄の古い知り合いである最上百合子の両親が、面相の良くない彼女の恋人代わりに雇ったというアンドロイドのジークフリート。彼から朝永とドドが奪い去った黒白2つの玉のうち、白いほうには、実は恐ろしい秘密が秘められていた。

☆つまり、この玉の秘密を知らないものが、下手に弄(いじ)くると、銀河系に働いている力学の全てを変えてしまう、というのだ。ジークフリートは秘密を熟知するゆえに、眠りつづける自分の雇い主に返しに行っていたが、途中で立ち寄った水の惑星・ソラリスで朝永とドドの2人に襲われ、2つ在った玉のうちひとつを奪われてしまった、というわけだ。

☆事の重大さを知ったロロンと田茂木茸雄は、ジークフリートの話を聞いて、深く大きくうなずいた。
 
 
田茂木「これは・・・大変なことになるぞ」
 
ロロン「何とかして、あいつ等から白い玉を取り戻さなくては!」

☆やがてガルー号は、惑星エリーとソラリスとの中間にある緑の惑星、ギラに到着。ロケットは着陸態勢を整え、砂煙を上げながら、ゆっくりと着陸した。ここギラに着いたのは、ソラリスを出発しガルーが、きちんと整備されないまま、発射したので、途中で降りて整備する為である。

☆ロロンは、ロケット・ガルー号のエンジンの調子が悪くなっていないかどうか、念の上に念を重ねて調べ始めた。
 「異常はないようね」彼女はほっとした顔になった。その額には汗が光っていた。そんなロロンを見ていたジークフリートの胸は、どきりとなった。顔が火照り、胸の鼓動が、激しくなるのを覚えた。ジークフリートは大いに驚き、かつ困惑した。

 “何故?私は百合子さんを愛するべく、プログラミングされたはずなのに・・・今、目の前に居る、顔を煤と汗だらけにしているあの人・・・ロロン号に対し、胸を高ぶらせるなんて・・・俺は、いったい、如何してしまったんだろう・・・?嗚呼、胸が苦しくなってきた・・・。”

☆そんなジークフリートの心境をよそに、田茂木とロロンはガルー号の整備に余念がなかった。コンパスの中の脳型コンピュータも幸い異常なしであった。

 「これは、当初の予定を変えなくてはならないな」・・・と田茂木は、ロロンに言った。彼女がうなずきつつ「ええ」と言う。
 「本当は、惑星エリーをたずねていきたかったのに・・・この世界を守る為なら、仕方がないわ」・・・ロロンは続けた。

☆「惑星エリー?そこへ行く予定だったの?」ジークフリートが彼女に思わず聞き返した。「そうよ」ロロンは答えた。ジークフリートの眼がそのとき、光った。

☆「俺、あの2つの玉、その惑星エリーで見つけたんだ!」大きな声を出した。えっ?と田茂木が驚きながら振り向いた。「ほんとかい?君?」

☆「俺が作られてすぐ、最上家にもらわれたばかりの頃、百合子さんの家族と一緒に惑星エリーに旅行しにいったのだ。あの黒白2つの玉は、エリーの奥地にあるトゥープゥートゥー村を訪れたとき、そこの長老からもらったものなんだ。『これを持っていれば、あらゆる災難からあなた方を守ってくれる』といって、その人はあの2つの玉を私達に、とプレゼントしたのだ。そのさい長老は、さっき言った秘密を小声で教えてくれたのだ」

☆田茂木「本当は、あそこへ行って珍しい生物を調査しようと思って、エリーへ出かけようとしていたのだが、君の一件を聞いて、何とかしないといけないと思った。予定を変えて、君の玉の片割れを探すことにした、君と百合子さんと、そしてこの銀河系世界の為にね」

☆ジークフリートの眼に見る見る光るものが溢れてきた。「・・・ありがとう・・・」彼は声を詰まらせたきり、横を向いて必死に涙をこらえた。この若者にとって、自分たちの為に動いてくれる人間は、田茂木とロロンが最初だった。

☆そのときだった、全身が炎のような熱さに包まれる感覚に、ジークフリートは襲われた。高鳴る心臓、燃えるような全身、激しい息遣いと共にこんなせりふがジークフリートの口からもれた。が、それは決して声にはならないせりふであった。

 “嗚呼・・・今、ハッキリと悟った。私はスキンヘッドの男と一緒に、自分の目の前に居る美しい人を愛してしまっていたことを!でも、あの人には田茂木さんという人が居る・・・だからどんなに僕があの人を愛していても、田茂木さんからあの人を奪ってはいけないのだ・・・でも・・・でも・・・おお・・・俺の心の奥底が、あの人がほしい、ロロンがほしい、とひたすら叫んでいる!この・・・この、心の叫びをや如何がせん・・・。”

☆いよいよ明日は玉を捜しに、本格的に旅立つのだ。田茂木とロロンがあれほど楽しみにしていた、惑星エリーへの旅はお預けとなってしまったが・・・。

☆気が付けば夜。濃紺の空を見上げると、無数の輝く恒星の粒が広がっていた。鬱蒼たる森はすっかり静まりかえり、虫の音だけが、ときおりささやかに流れるのみであった。

☆明日の夜明けの出発を待つ、ガルー号の中で、3人は床についていた。田茂木とロロンは2人抱き合って寝ていた。2人からやや離れたところで、ジークフリートは毛布に包まれながら横たわっていた。

☆「うう・・・ふうう・・・ぐうう・・ぐっ、うっ・・・」彼は獣の唸り声のような、荒い息遣いをしながら、ゴソゴソ毛布の中でうごめいていた。やがて、

 「うおおっ!」
 
 という雄たけびに似た声をあげたあと、すぐに彼は寝息を立てて、眠りについた。

 (この項おわり・この物語はフィクションです)

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夢の断片。 [ドラマ・ミニアチュール]

@『ニーベルングの指環』でヴァルキューレの筆頭として登場する美女・ブリュンヒルデ。後に自身とは甥の血縁関係にあるジークフリートと結ばれ、やがて悪の手にかかり、殺害された夫の後を追って死んでゆく。

@そのブリュンヒルデ、若き頃、娘時代は父親ヴォータンと近親相姦の関係にあった。もしかしたらヴォータンは他のヴァルキューレたちとも、近親相姦の関係を結んでいたかもしれない。古代からヴァーグナーの生きた近世に至るまで、独逸などでは近親相姦はよくあることであった。

@そのブリュンヒルデが、後にジークフリートを生むことになるジークリンデを救ったことで父に罰せられ、「お前は他の男と一緒になるがよい」と、ヴァルキューレの資格と武装を剥がされ、眠らされて岩山において置かれることになる。それを目覚めさせたのが、他でもないジークフリートだった。彼に見出された彼女は最初は拒むが、後に滅び行く運命を背負う英雄の胸に、最後は飛びこみ、「笑いながら死んでいく!」とたからかに恋の成就をうたい、永遠の愛を誓い合う。


@知性による賢さよりも、愛による愚かさを選んだブリュンヒルデ。その愚かさゆえに夫と運命をともにすることになる。が、一つだけ、いまわの際に彼女は美しい行動をした。否、美しくも哀しい行動をした。


@彼女はハーゲンらによる全てのわるだくみを知り、愛の贖罪をこめて、ジークフリートへの思いを叫び、父親らに向かって、「かくなる結果になりしは全てこの呪われたる指環にあり。しかして呪いはすべて成就せり。神々よ、今こそ憩うべし」と叫んで、指環をラインの乙女らに返し、自らはジークフリートを荼毘に付している炎の中に飛び込んで、壮絶な最期を遂げる。

@火葬した彼等の遺骸がすっかり焼けたあと、ライン河は大洪水を起こし、指輪を寄越せ!と叫んだハーゲンらを呑み込んで、ヴォータンなど欲望と暗愚に執り付かれた、堕落した神格者連中が作り上げた「神々の国」は完全に滅亡した。

@ヴァーグナーの『神々の黄昏』のラストでは、ギービヒ邸や「神々」や「英雄」が集うヴァルハラが炎上する、となっているが、自分が考えるに、英雄とその妻の最期を見た庶民達の中で、勇敢で怖れ知らずの者たちが、火のついた松明や武器を手に手に、「ジークフリートの仇をうてぇ!」と口々に叫び、まず大挙してギービヒ邸に押しかけ、そこにいた臣下、使用人たちを片っ端から打ち殺し、ほぼ全員を殺したところで屋敷に火をつけた。みるみる炎は屋敷の全てにまわり、残されたグートルーネ以下、まだ生きていた一族を焼き殺していった。

@群集たちは今度はヴァルハラに押しかけ、やはりそこにいた神々や英雄たちを、これも徹底的に打ち殺し、ホトンドを倒し終わったところで、今だ火のついている残りの松明を城内に放った。見る見るうちに火は燃え広がり、ヴァルハラはあっという間に焼け落ちた。

@ヴァルハラの火災による崩壊から、命からがら逃げ出した者がいたかもしれない。“火使いの神”ローゲと、ブリュンヒルデの妹たち、三つ下のヴァルトラウテと、一番下のロスヴァイセは、辛くも生き残った。・・・以上のことだったのではないか。

@この2人のヴァルキューレの生き残りと共に、安全な森の奥深くに落ち延びたローゲは、森の奥にある洞穴に彼女等と共に入り、彼女等を特殊な秘術で眠らせ、勇敢なる者以外は誰も入って来れないように青い火を張り巡らせ、洞穴の奥深くに隠した。・・・それはヴォータンがブリュンヒルデを眠らせ、岩山に火で囲って勇敢な奴(その勇敢な奴だったのがジークフリートだった)以外は通さなかった術と同じだった。

@こうして幾星霜の年月が流れ、何と、21世紀になった。例の岩山に眠らされた二人を囲った火はとっくに消え、かぶせられた楯は風化が激しく、表面がボロボロになっていた。

@丁度その頃、考古学の調査隊が、この謎の岩山を訪れ、調査の真っ最中であった。ふと、一人の研究員が、ボロボロに表面が朽ち果てた、二つの楯を見つけた。楯はカタカタ、と微かな音をたてていた。

@調査員が各々の楯をはずすと、中からそれぞれ古代の鎧兜で武装した、明らかに人間と思しい姿が現われた。調査員がおそるおそる鎧兜を外した。すると・・・!
 「おぉ~!」

@美しく、艶めかしい乙女2人の姿が現われた。
 「こりゃ・・・まるで生きているようだ!」もじゃけた髪の毛をした、一人の調査員が乙女たちの顔に自分の顔を近づけると、なんと!微かなる息遣いが。

「マジで生きてる!」 桜色に染まった可愛らしい唇が、小刻みに震えているではないか。調査員の胸が高鳴った。

@たしかヴァーグナーの楽劇では、英雄が乙女に口付けして目覚めさせるんだったな?ややや・・・ちょっとこわ~いけど、やってみよう!といって、目の前の一人の乙女に接吻した。

@ヴァルキューレには珍しい濃い栗色をした髪の、その乙女は、ゆっくりと眼を開いた。そして静かな声でこう言うのだった。

 「・・・私を目覚めさせた人は、あなた・・・?」 その眼は南の海のように、綺麗な澄んだ青色をしていた。


@調査員は、その眸の美しさに、たちまち魅了された。そしてたずねた、「君の名前は?」。

@乙女は答えた、「ヴァルトラウテ」。 


@そしてもう一人の乙女も…。「こっちも、気がついたようだよ!」 プラチナ・ブロンドの綺麗な長い髪に、綺麗な緑色の眸がこれまた印象的な、可愛らしい少女だった。少女は“ロスヴァイセ”と名乗った。

@かくして、2人のヴァルキューレは、21世紀の人間によって、永い眠りから醒め、彼等と当分の間、生活を共にする事になった。


@この物語の続きは、何れの機会にか、紹介することにしよう。(このエントリー終わり)
タグ:伝奇
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ライン河畔の白骨。 [ドラマ・ミニアチュール]

☆ずっと昔、独逸は南方のライン河畔で、大洪水があった。当時の荘園、城郭、臣民、すべてが呑み込まれ、ライン河の底の泥に埋もれていったという。

☆それから暫く経って、ある若者が、ライン河の支流の岸辺を通りかかった所、白いものが流れついているのに気がついた。

☆近づいてよくよく見ると、それは白骨化した人の死骸だった。若者は仰天し、近くの村に報せに行った。

☆村の者がどやどやと、現場に駆け寄ってきた。長老がやってきて、白骨を繁々と眺めた。すると!


☆白骨は手に高価な貴金属の腕輪をしていた。「きっと高貴なお方のものに違いない」 人々は、その白骨を丁重に埋葬したあと、腕輪を村の教会に寄進したそうな。


☆それから恐ろしいほどの長い年月が経ち、何時しか村は荒れ果て、教会は無くなり、人もいなくなり、腕輪も行方が判らなくなっていた。

☆腕輪のありかが、はっきりしたのは、今世紀になってからのこと、ラインの中古時代遺跡を発掘していたところ、発見された。純金の腕輪は、昔と変わらぬ輝きを放っていた。

☆一緒に出てきた白骨は、若い女のものとわかった。発見者は「この腕輪と白骨、きっとヴァルキューレのものに違いない」と言ったそうな。人々は、あのヴァルキューレの伝説に思いを馳せた・・・。

☆腕輪の裏に古代文字で刻印があった。解読すると、“ジークルーン”とあった。あぁやっぱりヴァルキューレは実在したかと、人々は不思議に納得した。
タグ:短編
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星人ロロン・第2部(9) [ドラマ・ミニアチュール]

▼惑星ソラリスで発見した、身元不明の男の記憶を解析していた、田茂木茸雄とロロン。モニターを見つめるその2人に、蒼ざめた驚愕の色が浮かんだ。


▼モニターに映し出されたのは、なんと、朝永とドド・アスベンの2人だった!彼等は自分たちよりも先に、ソラリスにやってきて、男に襲いかかり、男の手にしている白い石で出来た玉を強奪し、挙句に彼をドーン!と突いて、ソラリスの海に落とした。

▼一体何の為に、科学者ともあろうものが、この二人が、見ず知らずの若者を襲って、大事にしているものを奪い取るなんて…2人の顔には、呆れと失望と、ドドと朝永に対する憎悪と憤怒が入り混じった感情が浮かび上がっていた。

▼田茂木「何という奴等だ!…これでも科学者か!人間として堕落しきっている!」口元を歪めて、田茂木は2人を罵った。

▼…ロロンが、ふと気付いて男のほうを振り向く。「う、うぅ~ん…」と、男は眼を開き始めていた。

 ロロン「眼が醒めたようだわ」

 田茂木「よし、頭から装置を外そう」

▼2人して男の頭から、解析装置に繋がる電極を外し始めた。…全て外し終った後、男はむっくりと起き上がった。まだふらふらするらしく、眼差しが多少朦朧気味であった。

▼田茂木は、男に向かって言った。「大丈夫か?いきなり、あんなことをしてすまなかった。君が如何言う人なのか、ボクたちは知りたかったんだ。身元が分かり次第、君の住んでいるところへ帰すつもりだったんだよ」

▼「ボクは…」男は、ゆっくりと口を開き始めた、「如何やら、思い出してきたようだ…ボクの名前は、ジークフリート…地球人との混血のロボット工学者、プーロン忍成博士の手によって作られた、労働用のヒューマノイドだ…」。
 
 ロロン「えぇ?!」 彼女は仰天した。この“ジークフリート”というヒューマノイドは、プーロン忍成の手により、惑星グロテロの彼の研究室から生み出され、つい最近量産化されたばかりの新顔だからだ。

▼「あなたが、新しいヒューマノイドなのね?」「そうだ…」ジークフリートはそう言いつつ肯いた。その眼は灰色を帯びた青い眸であった。

▼「その君が、なぜソラリスにいたのかい?」今度は田茂木が、ジークフリートに聞いた。「大切なものを、誰かからあずかっていたのです。その一つである白い玉を、2人の男に奪われてしまった。後の黒い玉はどこへ行ったのですか」
 
▼「ここにある」 
 田茂木はその黒い玉を彼に見せた。彼は眼を見開き、おお、と感嘆の声を上げた。「ありがとう…この玉と、あともうひとつ、奪われた白い玉がないと…あの人を、蘇らせられない!」
 
 「あの人って、誰だ」田茂木が聞くと、

 「最上…最上百合子という、地球人だ…私の主人だ」
 
 「なんと!」田茂木の顔色が変わった。

▼最上百合子というのは、田茂木の卒業した大学の先輩の、妹であった。大学時代、彼女が田茂木に心を寄せていたことが、田茂木の脳裡からまざまざと蘇ってきた。彼女は生まれつき、目鼻が薄く、のっぺりしていた。その為に皆から「のっぺらぼうの妖怪」と蔑まされていた。

▼卒業を間近に控えていた時、百合子はある日、家族と共に、遠い惑星グロテロに移住していった。それ以来、何の音沙汰もない。

▼「君は、百合子さんに雇われたヒューマノイドなのか」「百合子さんには恋人が出来なかったので、ご両親が気をきかせて、私を購入してくれたのだ」

(つづく)
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